ブログ 『夏の音、もう一度』第1章「はじまりの椅子」 駅前の時計が午後二時を告げた。夏の陽射しはやわらぎつつあり、どこか風が優しい。 石川誠一は、カメラバッグを肩に下げてゆっくりと歩いていた。65歳。去年の春に定年を迎え、今は年金とちょっとした写真投稿の報酬で細々と暮らしている。 歩いているの... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『夏の音、ひとつぶ』第四章:小さな決意 日が暮れると、町の空気がひんやりと変わった。駅前の広場では地元の小さな夏祭りが始まり、子どもたちの声が飛び交っていた。提灯のやわらかな光が風に揺れ、短冊に書かれた願いごとが涼風にさらさらと踊っている。 「ほら、見て。あの短冊、面白いわよ」 ... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『夏の音、ひとつぶ』第三章:揺れる想い 民宿の窓を開けると、潮の香りが流れ込んできた。日が傾きかけた浜辺には、数人の観光客がサンダルの音を立てて歩いている。誠一は、旅用に持参した通気性のよいサンダルを履いて玄関を出た。ゆっくりと浜へ向かう。 時間の流れが柔らかくなるような、夏の夕... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『夏の音、ひとつぶ』第二章:再会 「本当に、大村くんなんだね……」 喫茶店の窓辺に並んで腰掛けた誠一に、高橋純子はじっと目を向けた。半世紀近い時間が空いているのに、こうして向かい合っていると、不思議と空白が埋まるような気がする。 「こんなところで会うなんてなぁ。てっきりもう... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『夏の音、ひとつぶ』第一章:波の向こうに 海を見に行こう。 そう思ったのは、ふとテレビで流れた気象予報士の「今週末、関東南部は絶好の海日和でしょう」という一言がきっかけだった。 大村誠一は、62歳。定年から2年が経ち、今は週に一度、近所の学童保育で読み聞かせのボランティアをしている... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 明日も、ふたりで。第5章「明日も、ふたりで」 桜の花がようやく五分咲きになったある日曜日、仁は駅前のベンチに座って澄子を待っていた。午後二時、風はまだ冷たいが、空は明るく晴れていた。喫茶店「ひだまり」ではなく、公園での待ち合わせ。二人にとって、これは初めての“デート”だった。澄子が現れ... 2025.05.31 ブログ恋愛
ブログ 明日も、ふたりで。第4章「家族という壁」 日曜の午後、仁は珍しくソファに座ったまま、スマホを握っていた。画面には「未読メッセージ:息子・翔太」の文字が表示されている。『最近、よく出かけてるみたいだけど、大丈夫?』たったそれだけの文なのに、妙に引っかかる。(……詮索しにきたのか? い... 2025.05.31 ブログ恋愛
ブログ 明日も、ふたりで。第3章「雨とひざ掛け」 午後の空はすっかり灰色に染まり、細かい雨が音もなく降っていた。喫茶店「ひだまり」の窓ガラスには、水滴がいくつも流れ落ちている。仁はいつもの席に座り、温かいブレンドを啜っていた。ひざには、最近ネットで買ったばかりの電気ひざ掛け。温熱機能がつい... 2025.05.31 ブログ恋愛
ブログ 明日も、ふたりで。第2章「もう一度、花を」 東京郊外、春の始まりを感じる三月。風はまだ冷たいが、陽ざしには確かにやわらかさがあった。「今日は、少し足を延ばしてみませんか?」澄子からそう声をかけられたのは、喫茶店「ひだまり」のテーブルにコーヒーが運ばれた直後のことだった。「駅前に、昔な... 2025.05.31 ブログ恋愛
ブログ 明日も、ふたりで。第1章「いつもの席で」 東京郊外、小田急線の駅から少し歩いたところに、古びたけれど落ち着いた雰囲気の喫茶店がある。名前は「ひだまり」。木の看板と控えめなステンドグラスの扉が目印だ。平日の昼下がり、店内には年配の常連客が多く、新聞を読んだり、静かにコーヒーを飲んだり... 2025.05.31 ブログ恋愛