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60歳からの投資物語 第8章 静かな勝者

秋風が吹き始めた十月の朝。章一は、コーヒーを片手にリビングの窓から庭を眺めていた。「よく、ここまで来たな……」ぼそりとつぶやいた声が、静けさの中に溶けた。目の前の庭には、澄子が植えたコスモスが風に揺れている。四季の移ろいを感じられる、そんな...
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60歳からの投資物語 第7章 実りのとき

「まさか、株でお前に相談する日が来るとはなあ……」そう言って笑ったのは、高校の同級生・野田だった。退職後、地域のグラウンドゴルフで再会して以来、何かと顔を合わせるようになった間柄だ。「いやいや、オレもまだ素人だぞ。今でこそプラスにはなってき...
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60歳からの投資物語 第6章 暴落の向こう側

「日経平均、前日比マイナス1,200円超えです! 円安、インフレ、地政学リスクが一気に噴出——株式市場に冷や水!」テレビから流れるアナウンサーの声が、章一の胸にずしんと響いた。——こんな暴落、久しぶりだ。スマホの証券アプリには、真っ赤に染ま...
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60歳からの投資物語 第5章 ひと株のぬくもり

春の風が、少しずつ温度を取り戻していく。四月の初め、桜がほころび始めた頃、澄子はようやく本調子を取り戻しつつあった。「この前のスーパー、ちょっと遠かったけど楽しかったわね」退院後しばらくは外出も控えていたが、最近は章一とふたり、買い物に出か...
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60歳からの投資物語 第4章 予期せぬ波乱

年が明けた。静かな元日、章一は例年どおり近くの神社に初詣に出かけた。寒空の下、白い吐息が立ち上る参道を、背筋を伸ばして歩く。——「今年は昨年以上に、堅実に、着実に」そんな願いを込めて引いたおみくじは「小吉」。
“驕らず慎ましく歩めば、実りの...
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60歳からの投資物語 第3章 再起のポートフォリオ

朝の光がリビングに差し込む。木の床に映るブラインドの影が、まるでチャートグラフのように見えた。章一はコーヒーを口にしながら、ノートパソコンを開いた。お気に入りに登録された「IR BANK」「日経電子版」「Yahoo!ファイナンス」「Kabu...
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60歳からの投資物語 第2章 はじめての損失

株式投資を始めてからというもの、章一の生活には小さな「熱」が宿った。毎朝、新聞の株式欄をチェックし、昼間はテレビの経済番組を流しながらチャートを見る。家計簿のように、株の値動きをエクセルに記録し、証券アプリを何度も開いてはニヤリとしたり、眉...
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60歳からの投資物語 第1章 終わりのはじまり

高田章一が、最後の勤務を終えて会社の門を出たとき、あたりはもうすっかり暗くなっていた。三月の冷え込みはまだ厳しく、吐いた息が白く浮かぶ。四十七年間。高校を出てすぐに運送会社に就職してから、ただの一度も職を変えなかった。トラックの運転手から始...