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愛は終わらない、暮らしも変わる  第6章 心の奥に咲く声

日曜日の午後、街の図書館は静けさに包まれていた。ガラス張りの窓から差し込むやわらかな陽光が、木製の机に優しい影を落としている。 誠一は涼子と並んで座っていた。 「この間の原稿、続きを読ませてくれる?」 涼子が小声で訊ねる。 誠一は一瞬戸惑っ...
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愛は終わらない、暮らしも変わる  第5章 記憶の引き出し

晴れた土曜の午後。風は少し冷たいが、陽の光はやさしく、街の緑をふんわりと包んでいた。 誠一は古い木製の引き出しを開けていた。長年手をつけていなかった書斎の棚。そこには、退職後もしまい込んだままの古い資料やノート、そして一冊のアルバムが眠って...
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愛は終わらない、暮らしも変わる  第4章 すれ違いの午後

昼過ぎ、涼子は縁側で静かにお茶をすすっていた。雨は上がったものの、まだ空は鈍いグレーを引きずっている。 誠一と出かけた市場の余韻は、まだ彼女の中に温かく残っていた。しかし、それと同時に、小さな違和感も芽を出していた。(私ばかり、頼っているの...
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愛は終わらない、暮らしも変わる  第3章 心の隙間

六月の空は、朝から厚い雲に覆われていた。雨が降るでもなく、ただじっとりと重たい空気が町を包んでいる。 涼子は、朝から気分が晴れなかった。 昨夜、東京にいる娘から久しぶりに電話があったのだ。孫が夏休みに遊びに来たいという話から、ふと話題が変わ...
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愛は終わらない、暮らしも変わる  第2章 それぞれの今

風鈴の音が、涼しげに軒先で揺れていた。 誠一の家は、昔ながらの木造平屋。庭先には紫陽花が色づき始め、初夏の訪れを静かに告げていた。「今日は、いい風ね。」 縁側に腰かけた涼子が、冷えた麦茶をすすりながら呟いた。誠一はうなずき、テーブルに置かれ...
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愛は終わらない、暮らしも変わる  第1章 還る場所

春の風が、駅前の桜並木を優しく揺らしていた。68歳の涼子は、久しぶりに故郷の町に戻ってきた。都会の喧騒から離れ、静かな時間を求めての帰郷だった。駅前の小さなカフェに入り、窓際の席に座る。注文したコーヒーの香りが、懐かしい記憶を呼び起こす。ふ...
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湯気の向こうに 【最終章】新たな朝

朝の光が、ゆっくりと仁と澄子の住む家を包み込んでいた。窓辺に置かれた鉢植えの緑が、優しく揺れる。「おはよう、澄子さん」仁がコーヒーを手に、リビングに入ってくる。「おはよう、仁さん」澄子はテーブルの向こう側で、穏やかな笑みを浮かべていた。二人...
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湯気の向こうに 第7章 想い出の場所で

夕暮れの光がゆっくりと街路樹の葉を染めていく。仁はその温かな橙色の景色を見つめながら、落ち葉の敷き詰められた歩道を歩いていた。手の中には、小さな箱があった。この場所は、澄子と初めて出会い、一緒に歩いた思い出の公園。そして今日、ここで二人は新...
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湯気の向こうに 第6章 それぞれの余白

日曜の午後、仁は澄子の家の前に立っていた。 小さな門を開けると、庭には夏の花が咲いていた。控えめに揺れる紫陽花、鉢植えのミントの香り。暮らしを丁寧に重ねてきた人の庭だと、すぐにわかった。「いらっしゃい、仁さん」 玄関を開けた澄子は、エプロン...
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湯気の向こうに 第5章 湯気の向こうに見えた顔

七月の風が湿気を含んで、肌にまとわりつく。仁はそんな重たい空気を払いながら、商店街を歩いていた。 手には、スーパーで買ったばかりの食材。豚肉、長ネギ、木綿豆腐、そしてしめじ。今夜は鍋にする予定だった。 料理教室で澄子に教わった「夏でもおいし...