ブログ 『春の風が、名前を運ぶ日』第5章「春の風が吹いた日」 桜が散り終えた図書館の前庭に、春の終わりを告げる風が吹いていた。 新緑が芽吹き、若葉のにおいが空気に混じっている。 「この風、覚えてますか?」 健一がそう尋ねたのは、久美子と並んで座るベンチの上だった。 「ええ。ちょうど一年前、あなたとここ... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『春の風が、名前を運ぶ日』第4章「桜の木の下で手を取って」 四月の初め、町の桜並木は今が盛りだった。 満開の花びらが風に舞い、まるで空から雪が降っているかのような光景。 そんな中、久美子と健一は並んで歩いていた。 「すごいですね……こんなに咲いてるの、久しぶりに見たかもしれません」 「ええ。毎年見て... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『春の風が、名前を運ぶ日』第3章「名前を呼ぶ練習、ふたたび」 図書館の中庭にある小さな休憩スペース。 植え込みの間に木製のベンチがあり、そこだけ春がぽっかりと咲いたように、陽射しがあたたかく満ちていた。 久美子は、そのベンチで文庫本を読んでいた。 ページの隅には付箋が挟まれ、読み返すたびに目を留める言... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『春の風が、名前を運ぶ日』第2章「図書館の春支度」 図書館の窓辺には、春の光がふわりと降り注いでいた。 江原久美子は、木の窓枠を拭きながら、あたたかさの増した空気を肌で感じていた。 「春の装飾、そろそろ始めましょうかね……」 カウンター横の壁には、昨年と同じ「春の読書フェア」の文字がかすかに... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『春の風が、名前を運ぶ日』第1章「ベンチの隣に咲いた花」 春の風は、冬の冷たさをやさしく押し返すように町を撫でていた。 公園の並木道では、早咲きの桜がぽつぽつと花を開き、ベンチのそばでは小さなチューリップが陽射しを浴びていた。 「春って、こんなにやわらかかったかしら……」 江原久美子は、図書館の仕... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『冬の灯りに、ふたりの影』最終章「冬の陽だまりと、ふたりの行方」 最終章「冬の陽だまりと、ふたりの行方」 冬の図書館は、思いのほか陽が差していた。 風は冷たいが、ガラス越しに届く光はやわらかく、窓辺の読書席にはぽかぽかとしたぬくもりが溜まっていた。 久美子は、その席で健一を待っていた。 今日は、ふたりで出... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『冬の灯りに、ふたりの影』第4章「ストーブの前で思い出話」 「どうぞ、遠慮なく入ってくださいな。こたつだけは立派なんですから」 久美子の家に、健一が初めて足を踏み入れたのは、小雪が舞う静かな午後だった。 小さな平屋の家は、築年数こそ古いが、玄関先に置かれた鉢植えや、干し柿が吊るされた軒下が、どこか懐... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『冬の灯りに、ふたりの影』第3章「凍える道の上で」 図書館へ向かう途中、江原久美子は足を止めた。 昨夜降った雪が、細い歩道にまだ残っている。日が昇っても気温は上がらず、地面は薄く凍りついていた。 ——健一さん、大丈夫かしら。 昨夜、短い電話があった。 「ちょっと寒気がしてね。今日は家で休もう... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『冬の灯りに、ふたりの影』第2章「マフラーと手紙」 冷たい風が図書館の窓を揺らしていた。 その日、江原久美子はカウンター業務の合間を縫って、小さな箱を包んでいた。 淡いグレーの包装紙に、細い赤いリボン。冬らしい、やさしい組み合わせだった。 その中身は——手編みのマフラー。 「こんなふうに人に... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『冬の灯りに、ふたりの影』第1章「暖炉の部屋で」 図書館のドアを開けると、冷たい空気が背中を押し戻してくるようだった。 吐く息は白く、玄関のガラスには冬の結晶が小さく広がっている。 森田健一は、手袋を外してストーブの前へと向かった。 図書館の職員用休憩室にあるその小さな電気暖炉は、静かに赤... 2025.06.05 ブログ恋愛