ブログ 『ふたりの午後に、花が咲く』第5章「花が咲いた午後」 春の終わり、南條秀一と江藤玲子は、ひとつの約束を果たすために小さな町へと向かった。 30年以上前、ふたりの記憶が静かに交差していたあの場所―― 石垣の残る斜面のそばに、黄色い菜の花が群れていた。 空はうすく晴れていて、少し強めの風が吹いてい... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ふたりの午後に、花が咲く』第4章「記憶の中の光と色」 玲子のアトリエに、午後の光が斜めに差し込んでいた。 木の床に映るカーテンの影が、まるで水面のように揺れている。 「見せたいものがあるんです」 秀一は、古びた紙袋をそっとテーブルに置いた。 「この間、昔のフィルムを現像してみたんですよ。あなた... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ふたりの午後に、花が咲く』第3章「ピントの合う場所」 秋の風がほんの少し冷たくなり始めた午後、南條秀一は久しぶりにネガフィルムを現像に出した。 引き出しの奥で長く眠っていた、十数本のロール。ラベルに書かれた日付は、どれも十年、いやそれ以上前のものばかりだった。 フィルムを受け取って帰ると、思い... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ふたりの午後に、花が咲く』第2章「雨とアトリエと、言えなかったこと」 ふたたび植物園で出会ったのは、あの日から二週間後の午後だった。 南條秀一がカメラを提げて温室に入ろうとしたそのとき、入り口で偶然、江藤玲子と目が合った。 「あ……」 「こんにちは、またお会いしましたね」 どちらからともなく、ふたりは並んで歩... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ふたりの午後に、花が咲く』第1章「忘れられたカメラと、ひとつの花」 日曜の午後、植物園の温室は、ほのかに湿った空気と甘い花の香りに包まれていた。 南條秀一は、その奥の静かなベンチに腰掛け、膝の上に古びたカメラを置いていた。 ニコンのフィルム一眼レフ。レンズにほんのわずか、白い埃が積もっている。 使わなくなっ... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第5章「日曜の午後、名前で呼ぶなら」 日曜日の午後、雲ひとつない青空の下で、ふたりは並んで歩いていた。 今日は少し足を延ばして、町の小さな商店街まで。 弘が昔よく通っていた喫茶店がまだ残っているらしいと聞いて、澄子を誘ってみたのだ。 「ここが、“パーラー風音”……懐かしいな。看... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第4章「歩幅を合わせて」 「……歩きませんか?」 そう言ったのは、澄子のほうだった。 午後のベンチに座ってコーヒーを飲んだあと、ふたりはいつものように少し話していた。 話題が一段落したころ、ふと彼女が立ち上がった。 「この公園のまわり、ぐるっと一周歩くとちょうど十五... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第3章「午後四時、コーヒーと手紙と」 午後四時。 公園の木陰にできたベンチに、高梨弘は紙袋をそっと置いた。 その中には、魔法瓶に入れたコーヒーと、カップがふたつ。 そして、一通の手紙。 「——工藤澄子さま」 彼女が前回この場所に姿を見せてから、一週間が経っていた。 その間、弘は... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第2章「すれ違いと、おなじ景色」 それから数日、高梨弘と工藤澄子は、午後の公園で何度か顔を合わせた。 最初は挨拶だけだったのが、次第に言葉を交わすようになり、やがてベンチの隣に座るのが自然になった。 話すことは、いつもささいなことばかりだった。 風のこと、季節のこと、好きだ... 2025.06.05 ブログ恋愛
ブログ 『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第1章「はじめまして、静かな午後に」 風がやさしく、木々の葉を揺らしていた。 陽ざしは強いが、日陰に入ると肌をなでる風に、ほんの少しだけ秋の匂いが混じっている。 午後三時。町の外れの公園は、子どもたちがいなくなった時間帯のせいか、静けさに包まれていた。 ベンチに腰を下ろした高梨... 2025.06.05 ブログ恋愛