若いころの恋は、燃えるような感情が先に立っていた。好きかどうか、会いたいかどうか、その気持ちの強さで心が揺れ動いた。けれど、60歳を過ぎた今、その“熱”はいつのまにか“響き”へと変わっていた。
ある日、一緒に散歩をしていた人がふと「風が気持ちいいね」と言った。その一言に、私は胸を打たれた。私もまったく同じことを考えていたからだ。気持ちを言葉にするより前に、感じていたことが重なった瞬間だった。
そうか、これが共鳴なのだと思った。言葉を尽くさなくても、無理に笑わせようとしなくても、同じ景色を見て、同じ速さで歩き、同じ空気を吸う。それだけで安心できる関係。
共鳴は静かだ。情熱のように爆発しない。でも、深く、長く、心に染み込んでくる。季節の変化に一緒に気づけること、沈黙を不安に感じないこと、相手の癖や声色を自然に受け入れられること。それらはすべて“共に生きている”という実感に通じている。
60歳からの恋は、「好き」という言葉よりも、「居てくれてうれしい」という実感で育っていく。あの頃のように心が激しく波打つことは少なくなったけれど、穏やかに響き合うこの気持ちを、今の私はとても愛おしく思っている。