彼女は、コーヒーを淹れるのが上手だった。
「少し酸味のある豆が好きなの」
そう言って、小さなミルで豆を挽く。
ゴリゴリという音が、静かな午後の部屋に響いた。
窓の外では風が梢を揺らし、陽の光がレースのカーテンを透けていた。
「今日は少し濃いめにしようか」
彼女が微笑みながらそう言ったのは、どこか懐かしい音楽がラジオから流れてきた瞬間だった。
リビングの片隅にある、小さなレコードプレイヤー。
スピーカーからは、ふたりが若かった頃に流行ったジャズがふわりと流れていた。
「覚えてる?」
「うん。高校の文化祭でこの曲、吹奏楽部が演奏してた」
「そうそう。…あなたがトロンボーン吹いてたんでしょ」
「懐かしいな」
彼女がハンドドリップでコーヒーを淹れる手元を見ながら、
私はその頃の記憶を、湯気のようにたぐり寄せていた。
「でも、あの頃ってさ」
彼女が少しだけ声を落とした。
「私、あなたのこと、ずっと避けてたんだよ」
私は驚いて顔を上げた。
「え? なんで?」
「だって…、話すと照れくさかったし。ちょっと、憧れてたし」
コーヒーの香りが強くなってきた。
それと同時に、彼女の声が少しだけ震えているように感じた。
彼女は、カップをテーブルに置いた。
ラジオは、ちょうど次の曲へと切り替わるところだった。
「それでもね、今こうして、同じ曲を聴きながらコーヒー飲んでるって、
なんだか不思議。人生って、何が起こるかわからないね」
「……ほんとに」
カップを口に運ぶ。
酸味と苦みの中に、ほんのり甘さが残る。
まるで彼女の記憶のようだった。
「最近はね、もうCDも聞かなくなったから」
彼女はレコードの溝を指でなぞるように見つめながら言った。
「でも、この音が好きなの。少しザラザラしてて、あたたかくて」
「音って、思い出を引き出すよな」
「うん。昔の恋とか、風景とか、服の色まで思い出す。匂いまで思い出すのよ、不思議ね」
「じゃあ…、これからの思い出も、この音で残せたらいいな」
私がそう言うと、彼女は少し驚いたような顔をして、
すぐに笑った。
コーヒーは冷めていったけれど、
その午後の時間は、ゆっくりと心の奥に沈んでいった。
ふたりの沈黙には、意味があった。
そして、それは音と香りによって、やさしく包まれていた。
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