小さな無人駅に降り立ったとき、空の青さと澄んだ空気に、真理子は思わず深呼吸をした。
信州のこの町には、夫と毎年、秋になると訪れていた。紅葉と温泉と、なにより、静けさが好きだった。だが、夫が亡くなってからは足が遠のいていた。今日は七回忌。ようやく、ひとりで来る気持ちになれた。
駅舎のベンチに腰を下ろし、鞄から取り出した小さな水筒で紅茶をひとくち飲む。風のにおいが少し冷たくて、秋の深まりを感じさせた。
ふと、向かいのベンチに座る男性に気づいた。ベージュの帽子をかぶり、膝の上にスケッチブックを広げている。目を細めて、駅のホームや遠くの山並みを見つめては、鉛筆を走らせていた。
真理子は、ただその姿を見ていた。スケッチの対象が自分でないことを確認してから、そっと視線を外した。
「……いい風ですね」
男性が、ふいに話しかけてきた。
思わず驚いたが、声には穏やかさがあった。年齢は六十代後半くらいだろうか。線の細い顔に、やや日焼けした肌。
「ええ、秋の風は、少し寂しくて、でも……好きです」
自分でも驚くほど素直な言葉が、口から出た。
「わかります。その寂しさが、描きたくなるんです」
そう言って、男性はスケッチブックを少し傾けて見せてくれた。
描かれていたのは、今まさに目の前にあるこの無人駅。木製のベンチや、錆びた看板、遠くの紅葉した山までもが、淡い鉛筆の線でやさしく描かれていた。
「……すごく、素敵ですね」
男性は照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。趣味で、ね。昔は広告の仕事をしてたんですが、今は絵ばかりです。時間もあるし、好きな場所を巡って描いてるんです」
「絵を描く旅……素敵ですね」
「そちらも、旅ですか?」
「ええ……少し、思い出を辿りに」
それ以上は語らなかった。けれど、男性はそれ以上聞いてこなかった。ただ、黙って頷き、再びスケッチに目を落とす。風が吹き、木々が揺れた。
ホームに電車が入ってくる音がして、会話は自然に途切れた。降りてきた乗客は一人か二人。駅には再び、静けさが戻った。
「この町、紅葉がとても綺麗ですよ。山の上のほう、今が見ごろです」
「知ってます。……毎年来ていたので」
自分の声に、少しだけ震えがあった。男性は、何かを察したようだったが、やはり何も言わなかった。
しばらくして、彼はスケッチブックを閉じた。
「私は、これから山の美術館に行くんです。小さな芸術祭が開かれていて。よろしければ、ご一緒にどうですか? 変な意味ではなく、案内できますから」
少しの沈黙のあと、真理子はゆっくり頷いた。
「……お願いしてもいいですか。道に、迷いそうなので」
二人は駅舎を出て、落ち葉の舞う小道を歩き出した。互いに、名前も知らないまま。けれどその歩幅は、不思議とぴたりと合っていた。
■登場アイテム紹介:第1章「木漏れ日のホームで」
1. 【軽量で上品な旅バッグ】
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2. 【保温・保冷OKな紅茶用マグボトル】
[サーモス 真空断熱ケータイマグ JNLシリーズ 350ml]
真理子が駅のベンチで飲んでいた紅茶にぴったり。片手で開けられる軽量モデルで、女性でも扱いやすいサイズ感。
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3. 【風景スケッチに最適な画材セット】
[マルマン クロッキーブック+三菱鉛筆 高級鉛筆セット]
男性が使っていたスケッチブックは、持ち運びやすく描きやすいマルマン製。鉛筆は芯の柔らかさで表現力が広がる。旅行先で絵を描きたい方にもおすすめ。
▶スケッチブック:約600円前後
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