玲子のアトリエに、午後の光が斜めに差し込んでいた。
木の床に映るカーテンの影が、まるで水面のように揺れている。
「見せたいものがあるんです」
秀一は、古びた紙袋をそっとテーブルに置いた。
「この間、昔のフィルムを現像してみたんですよ。あなたと話してたら、どうしても気になって」
袋の中には、数十枚の写真プリントが入っていた。
それは、30年以上も前のものだった。
中東の市場、被災地の子どもたち、夕焼けの東京湾――
その中に、一枚だけ、日本のとある田舎町で撮った写真があった。
薄曇りの空の下、崩れかけた石垣と、咲き誇る野花。
手前に、誰かが置き忘れたようなスケッチブックが写っていた。
「……この場所……」
玲子が呟いた。
「これ、わたしが昔通っていた美術学校の近くです。学生時代、よくあの場所で描いてました。
あの石垣、まだあったんですね……たぶん、このスケッチブック、私のものかもしれない」
ふたりは顔を見合わせた。
「偶然って……あるんですね」
「いいえ、たぶん、あの頃の自分が“誰か”に見てもらいたかったのかもしれません」
玲子は言葉を選びながら続けた。
「描いていたのに、誰にも見せられなかった。自信もなかったし……でも、誰かに見てほしかった気持ちは、あったと思うんです」
秀一はゆっくりと写真をスケッチと並べた。
「光の感じが似てますね。あなたの絵と、この写真。空気の色まで重なっているようです」
「……撮ったあなたが、そう感じてくれたことが、うれしいです」
玲子はそっとスケッチブックを開き、
新しいページに鉛筆を走らせた。
「この景色、もう一度描き直してみます」
「じゃあ、私はもう一度撮り直してみようかな。デジタルじゃなくて、同じフィルムで」
アトリエの静かな空気の中、
ひとつの記憶が、光と色でふたたび“いま”に浮かび上がっていた。
かつてすれ違っていたふたりの視点が、今この時間で重なっていく。
それは、ただの偶然ではなく、歳月の先にあった“意味ある再会”だったのかもしれない。
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