『ふたりの午後に、花が咲く』第4章「記憶の中の光と色」

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 玲子のアトリエに、午後の光が斜めに差し込んでいた。

 木の床に映るカーテンの影が、まるで水面のように揺れている。

 「見せたいものがあるんです」

 秀一は、古びた紙袋をそっとテーブルに置いた。

 「この間、昔のフィルムを現像してみたんですよ。あなたと話してたら、どうしても気になって」

 袋の中には、数十枚の写真プリントが入っていた。

 それは、30年以上も前のものだった。

 中東の市場、被災地の子どもたち、夕焼けの東京湾――

 その中に、一枚だけ、日本のとある田舎町で撮った写真があった。

 薄曇りの空の下、崩れかけた石垣と、咲き誇る野花。

 手前に、誰かが置き忘れたようなスケッチブックが写っていた。

 「……この場所……」

 玲子が呟いた。

 「これ、わたしが昔通っていた美術学校の近くです。学生時代、よくあの場所で描いてました。

 あの石垣、まだあったんですね……たぶん、このスケッチブック、私のものかもしれない」

 ふたりは顔を見合わせた。

 「偶然って……あるんですね」

 「いいえ、たぶん、あの頃の自分が“誰か”に見てもらいたかったのかもしれません」

 玲子は言葉を選びながら続けた。

 「描いていたのに、誰にも見せられなかった。自信もなかったし……でも、誰かに見てほしかった気持ちは、あったと思うんです」

 秀一はゆっくりと写真をスケッチと並べた。

 「光の感じが似てますね。あなたの絵と、この写真。空気の色まで重なっているようです」

 「……撮ったあなたが、そう感じてくれたことが、うれしいです」

 玲子はそっとスケッチブックを開き、

 新しいページに鉛筆を走らせた。

 「この景色、もう一度描き直してみます」

 「じゃあ、私はもう一度撮り直してみようかな。デジタルじゃなくて、同じフィルムで」

 アトリエの静かな空気の中、

 ひとつの記憶が、光と色でふたたび“いま”に浮かび上がっていた。

 かつてすれ違っていたふたりの視点が、今この時間で重なっていく。

 それは、ただの偶然ではなく、歳月の先にあった“意味ある再会”だったのかもしれない。

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