『ふたりの午後に、花が咲く』第1章「忘れられたカメラと、ひとつの花」

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 日曜の午後、植物園の温室は、ほのかに湿った空気と甘い花の香りに包まれていた。

 南條秀一は、その奥の静かなベンチに腰掛け、膝の上に古びたカメラを置いていた。

 ニコンのフィルム一眼レフ。レンズにほんのわずか、白い埃が積もっている。

 使わなくなって、もう十年は経つ。

 それでも、なぜか今日は持ち出したくなった。

 反射的にシャッターに指をかけると、すぐ横にしゃがみ込んでいる女性に気づいた。

 淡いピンクのブラウス。小さなスケッチブックを持ち、熱心に何かを描いている。

 眉間には小さな皺。だが、その顔はどこか生き生きとしていた。

 彼女の前には、一輪だけ咲いたカトレアの花。

 秀一がそっとカメラを構えると、その女性が振り返った。

 「あら……すみません、もしかして写ってしまいました?」

 「いえ。むしろ、あなたと花の構図が、とてもきれいだったので」

 そう言うと、女性は少し照れたように笑った。

 「写真を撮られていたんですね。最近はスマホばかりだから、久しぶりに“カメラの音”を聞いた気がします」

 話しているうちに、ふたりは温室のベンチに並んで腰を下ろしていた。

 「……元は新聞社で写真を撮っていました。定年してからは、あまり持ち歩かなくなって」

 「私は美術の教師をしていました。今は講座を少しだけ。好きで絵は描き続けています」

 「写真と絵。近いようで、違う世界ですね」

 「でも、“きれいだと思った瞬間を残したい”という気持ちは、同じかもしれません」

 その日、ふたりは名前も名乗らず別れた。

 「また、お会いできたら」とだけ言い残して。

 だが、ふたりの胸には、それぞれ、

 久しぶりにピントが合ったような、あたたかな余韻が残っていた。

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