「……歩きませんか?」
そう言ったのは、澄子のほうだった。
午後のベンチに座ってコーヒーを飲んだあと、ふたりはいつものように少し話していた。
話題が一段落したころ、ふと彼女が立ち上がった。
「この公園のまわり、ぐるっと一周歩くとちょうど十五分くらいらしいですよ。歩幅をそろえたら」
弘は思わず微笑んだ。
「歩幅、ですか……。昔から、誰かと並んで歩くのが苦手だったんです」
「私もです。でも、もう急ぐ必要もないですしね。のんびりいきましょう」
ゆっくりと歩き出したふたりの足元には、落ち葉がカサカサと音を立てていた。
まだ夏の名残があるが、風は秋の気配を含んでいて、どこか肌にやさしい。
「昔、夫とよく歩いた道があったんです。でも、あの人は早足で、いつも私が小走りになるような感じで……」
「わかる気がします。私の妻も、よく先に立って歩いてました。あの人はせっかちで、私はのろくて」
「……でも、こうして歩くと、ゆっくりって、案外いいですね」
途中、少し傾斜のある道にさしかかった。
弘が無意識に歩調を緩めると、澄子もそれに合わせて一歩ずつ進んだ。
互いに言葉にしなくても、どこか気遣いが行き交っている。
「弘さん、気づいてました?」
「何をですか?」
「私、今日あなたのこと、名前で呼んでましたよ」
弘は驚いたように足を止めた。
「……本当だ」
「そろそろ“工藤さん”も卒業しようかと。名前で呼ばれるの、やっぱりうれしいものですね」
弘はしばし無言で空を見上げた。
「……じゃあ、僕も“澄子さん”と呼びましょうか」
ふたりの間に、そよ風が吹き抜ける。
その風のやわらかさと、名前を呼び合う響きが、穏やかに重なっていた。
「名前で呼ぶだけで、なんだか歩幅まで近づいた気がしますね」
澄子がそう言うと、弘は小さくうなずいた。
「ええ、まったくです。今の歩幅が、たぶんちょうどいい」
ぐるりと公園を一周して、ふたりは元のベンチに戻った。
少し汗ばんだ額に風が気持ちいい。
弘がハンカチで額をぬぐいながら言った。
「次は、もう少し遠くまで歩いてみますか」
澄子は、静かに笑った。
「はい。ゆっくり、歩幅を合わせながら」
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