『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第3章「午後四時、コーヒーと手紙と」

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 午後四時。

 公園の木陰にできたベンチに、高梨弘は紙袋をそっと置いた。

 その中には、魔法瓶に入れたコーヒーと、カップがふたつ。

 そして、一通の手紙。

 「——工藤澄子さま」

 彼女が前回この場所に姿を見せてから、一週間が経っていた。

 その間、弘は何度かこのベンチに足を運んだ。澄子の姿はなかったが、それでも何かが変わるような気がして、毎日少しだけ、同じ景色を眺めた。

 そして昨日、自分でも驚くような行動に出た。

 手紙を書いたのだ。

 数十年ぶりに、人へ向けた私的な手紙。

 《——先日は、すこし驚いてしまって、うまく言葉にできませんでした。

 あなたがこの場所に抱く思い出を、もっとちゃんと聞けばよかった。

 同じ景色を見ているから、同じ気持ちでいると思っていた自分が、少し恥ずかしいです。

 ……でも、僕は、あの午後の静けさと、あなたがノートに何かを書き留める姿が好きでした。

 このベンチで、またお会いできたらうれしいです。

 ——高梨 弘》

 弘は、手紙とコーヒーを入れた袋をベンチの脇に置いたまま、公園を離れた。

 そこに澄子が来る保証はなかった。

 それでも、言葉を渡すことに意味がある気がした。

 次の日、同じ時間に弘がベンチに戻ると、袋はなかった。

 代わりに、小さな封筒がベンチにそっと置かれていた。

 ——弘さんへ

 手紙の封を切る手が、少し震えた。

 《……こちらこそ、ごめんなさい。

 この場所は、苦い記憶が残っていたけれど、あなたと話していると、その思い出も、少しだけやわらかくなるような気がしていました。

 それを自分で否定したくなっていたのかもしれません。

 でも、あなたの手紙を読んで、“今の気持ち”を、ちゃんと受け取ってくださっていたことが、うれしかったです。

 明日、午後四時。少し早く着いたら、あのベンチに座っておきます。

 ——澄子》

 弘は、封筒をそっと胸ポケットにしまった。

 公園の空が、夏の終わりの光でやわらかく染まり始めていた。

 翌日、午後四時。

 ふたりは、久しぶりに並んでベンチに座った。

 カップに注がれたコーヒーの湯気が、ほんのりと香った。

 「……この時間、好きになれそうです」

 「はい、わたしも。名前を呼ばれるのが、また楽しみになりました」

 コーヒーの香りと共に、ふたりの心の距離がまた少しだけ、近づいていた。

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