『冬の灯りに、ふたりの影』第4章「ストーブの前で思い出話」

ブログ

 「どうぞ、遠慮なく入ってくださいな。こたつだけは立派なんですから」

 久美子の家に、健一が初めて足を踏み入れたのは、小雪が舞う静かな午後だった。

 小さな平屋の家は、築年数こそ古いが、玄関先に置かれた鉢植えや、干し柿が吊るされた軒下が、どこか懐かしさを醸し出していた。

 「うわ……本当に、立派なこたつですね。脚がしっかりしてる」

 「父の代から使ってるんです。重たいけれど、冬になるとやっぱりこれじゃないと」

 健一は、ソファの代わりに置かれた座椅子に腰をおろし、足をこたつに潜り込ませた。

 そして、部屋の隅に置かれた石油ストーブに目をやる。

 「このストーブも懐かしいな。僕の実家にも、同じ型がありました」

 「音がしますけど、あの“ゴー”って音がなんだか落ち着くんですよね」

 ふたりは、湯気の立つ湯呑を手に取った。中身は、黒豆茶。

 ふわりと甘い香りが漂い、身体の芯からじんわりと温まる。

 しばらく静かな時間が流れたあと、健一がふと、湯呑を置いた。

 「……久美子さん。ひとつ、聞いてもいいですか?」

 「はい、どうぞ」

 「あなたは、ずっとこの町で暮らしてきたんですか?」

 久美子は小さくうなずいた。

 「はい。でも、一時期は東京にもいました。結婚していたとき、数年間だけ」

 「そうなんですね……」

 「でも、離婚して戻ってきました。地元のこの家が、私にとって“呼吸しやすい場所”だったんです」

 健一はうなずいた。

 「……僕は、妻を早くに亡くしました。娘ももう自立していて、今は仙台にいます」

 「……そうだったんですね」

 ふたりは、互いの目をそっと見つめ合った。

 どちらも、過去にいくつかの別れを経験してきた。けれど今、こうして“現在”の隣に座っている。

 「歳を重ねると、失うことが多くなります。でも……それ以上に、“残るもの”もあるんだって、最近は思うようになりました」

 「たとえば?」

 健一は、久美子の湯呑を指差した。

 「たとえば、その黒豆茶。誰かのために淹れる気持ちとか、こうして膝を向け合わせて話す時間とか」

 久美子は、ふっと笑った。

 「……じゃあ、私はあなたの“残ったもの”になれてるんでしょうか?」

 「ええ、なっています」

 こたつの中で、ふたりの足先がほんの少し触れた。

 陽が傾きはじめ、ストーブの火が少しだけ強く揺れた。

 健一が帰り支度をはじめると、久美子が玄関でマフラーを巻いてやった。

 「これで、少しはあったかくなりますよ」

 「……ええ、心も、です」

 凍てつく外気の中、玄関の灯りだけがやわらかくふたりを照らしていた。

 冬の夜は長い。でも、その中にある小さな温もりは、何よりも頼もしい。

📦 第4章に登場したおすすめアイテム紹介

この章では、冬の家庭のぬくもりを演出するアイテムが多数登場しました。

🏠 こたつセット(ヒーター+布団+テーブル)

特徴:手元操作、弱中強の3段階切替。高齢者の部屋にも設置しやすい小ぶりサイズ。

参考商品例:

【Amazon】山善 一人用こたつセット(正方形・省スペース)

🔥 石油ストーブ(手動点火・ノスタルジックデザイン)

特徴:暖かさと音に癒される。灯油タイプながら臭いが少ない人気型。

参考商品例:

【Amazon】トヨトミ レトロ石油ストーブ(ダークグリーン/自然通気型)

🍵 黒豆茶(ノンカフェイン・ポリフェノール豊富)

特徴:香ばしくてほんのり甘い。温活・血行促進にも◎

参考商品例:

【Amazon】国産黒豆茶(ティーバッグタイプ・30包)

コメント

タイトルとURLをコピーしました