『ゆっくり咲く花もある』第4章「花が咲く日を待ちながら」

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 六月の終わり、図書館の庭にはアジサイが咲きそろい、小さな虫たちがその間を飛び交っていた。

 曇り空でも蒸し暑く、梅雨らしい湿気が肌にまとわりつく午後。森田健一は、いつものベンチに座っていた。

 その隣に、今日は先に久美子がいた。

 「こんにちは、健一さん。今日は、ちょっとだけ待ってました」

 「じゃあ、今日は僕が“後から来た人”ですね」

 ふたりはそれだけで笑い合った。

 木陰のベンチはいつもより少し涼しく、すぐ脇に置かれた植木鉢のミントが、やさしい香りを漂わせていた。

 「ここの植物、手入れされてるんですね」

 「ええ、週に一度だけボランティアさんが来てくれるんです。……私も少し手伝ってます。剪定だけですけど」

 「へえ……」

 健一は、ふと問いかけるように彼女の横顔を見つめた。

 「こうして植物を見ていると、なんだか安心しますね。花が咲く日を待つだけで、人の気持ちってずいぶん救われるものなんですね」

 「……そうかもしれません。咲いてくれたら、もちろん嬉しい。でも、それ以上に“待つ時間”の方が、意味がある気がして」

 「なんだか、人生みたいですね」

 久美子は少し笑い、植木鉢に視線を落とした。

 「私はね、夫が亡くなったあと、数年間はずっと“咲かない花”みたいな気持ちだったの。何をしても、色が足りないような」

 「……わかる気がします。僕も、父の介護を見送ったあと、ぽっかり心に穴が開いたままでした」

 ふたりは言葉を交わしながら、風に揺れるアジサイの葉を静かに見つめていた。

 「だから、こうやって誰かと花の話をしてること自体、ずいぶん前向きになった証拠だと思うんです」

 「ええ。本当に」

 久美子は小さな剪定バサミを取り出し、枝先の枯れかけた葉をひとつ切った。

 「このハサミ、電動なんですよ。少し握力が弱くなっても扱いやすくて。……私が“また植物を触ろう”って思えたのは、これのおかげかも」

 「へぇ、便利な道具ですね」

 「道具が支えてくれることで、心が動くことってありますよね。年を取ってからは、特にそう思います」

 ふたりの手元には、読みかけの本と小さな水筒。

 久美子はその水筒をそっと差し出した。

 「お茶、いかがですか? 今日はミントとレモングラスのブレンドです」

 「ありがとうございます。……この香り、すごく落ち着きますね」

 「ね。私、こういう“手のひらの安心”みたいなものを、少しずつ暮らしに増やしたいと思ってるんです」

 「じゃあ……僕も、それに付き合っていいですか?」

 久美子は驚いたように目を丸くし、それから穏やかにうなずいた。

 「もちろんです。ゆっくりでいいから。花が咲くのを、急がずに待てる関係って、いいなと思うから」

 図書館の上を、分厚い雲が流れていく。

 それでも、ふたりの間に流れる時間は、柔らかく晴れていた。

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