午後三時、店の扉に「準備中」の札がかけられる。
いつもより静かな日曜日、沢田澄子は店の中にある小さな時計を見ながら、奥の座敷に布団を干し、再び店内に戻った。
「今日も来てくれるかしらね」
そう呟いた直後、風鈴がやわらかく鳴った。
入口に立っていたのは、石川誠一。やや薄手のジャケットを羽織り、首元にはコンパクトなデジカメがぶら下がっていた。
「こんにちは。……邪魔じゃないかな」
「ううん、ちょうど今、コーヒーをいれようと思ってたところ」
ふたりは自然と、前回と同じ窓際の席に向かった。外は薄曇りだったが、風が心地よい。
テーブルには今日も、小さなミントの葉とレース編みのコースター。澄子の細やかな気配りは変わらない。
「今日は写真、撮ってきたの?」
「うん。近くの公園で、蓮の花が咲いててね。季節の巡りって、本当に早いなと思ったよ」
「私ね、そういうの最近になってようやく感じるようになったの。昔は季節なんて、仕事と家事の中で流れていくだけだった」
「わかる気がする。退職してから、時間の流れが変わったというか……」
「誠一さんって、きっと働いてるときから“ちゃんと感じる人”だったんじゃない?」
「いや、それはないな。むしろ、感じている“つもり”だったのかもしれない。……今のほうがずっと、丁寧に時間を受け取ってる気がする」
ふたりの会話は、波のように行きつ戻りつしながらも、心地よく続いていた。
「ねぇ、カメラって難しくない? 私、機械音痴だからダメなのよ」
「最近はね、簡単なデジカメもあるんだ。液晶に写る景色をそのまま“撮る”だけ。設定は全部オートで、ブレ補正もしてくれる」
そう言って誠一は、バッグからコンパクトなデジカメを取り出して見せた。
「こういうの。軽くて、シャッターも静か」
「……それなら、私でも扱えるかしら」
「今度一緒に、撮ってみる?」
その提案に、澄子は一瞬だけ戸惑った表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
「……うん。よかったら、使い方も教えてくれる?」
「もちろん」
静かな午後のカフェで、小さな“教室”が始まった。誠一は操作方法を説明しながら、澄子の手にそっとカメラを渡す。
「そのボタンを押すと……そう、それで撮れる」
澄子は少し緊張した面持ちで、カメラを構える。そして、シャッターを押す音が静かに響いた。
「撮れた……かしら?」
画面には、誠一が少し照れたように笑っている写真が映っていた。
「悪くないね。……僕の写真、こんなにやさしい雰囲気で撮られたの、初めてかも」
「それは……モデルがいいからじゃない?」
ふたりは声を立てて笑った。
その声が店内にやわらかく響き、レースのカーテンが風に揺れた。
夕方、ふたりは店を出て、近くの川沿いを散歩した。そこには、春に植えられたばかりの桜の若木が並んでいた。
「この木も、来年には花が咲くかしらね」
「咲くさ。手入れすれば、きっと立派に咲く」
「……じゃあ、来年も一緒に見に来てくれる?」
「もちろん。……その時は、写真に残そう」
足元を見れば、小さな野花が揺れていた。
午後の光とふたりの影が、地面にそっと重なっていた。
📦 第3章に登場したおすすめアイテム紹介
今回は「ゆっくりと過ごす時間」や「趣味を分かち合う暮らし」に役立つ道具が登場しました。
📸 コンパクトデジタルカメラ(軽量・初心者向け)
特徴:オート撮影対応。ブレ補正、Wi-Fi転送付きで初心者にも安心。
参考商品例:
【Amazon】Canon PowerShot SX740 HS(光学40倍ズーム・手ブレ補正)
👓 ルーペ付き読書メガネ(新聞・趣味用)
特徴:細かな操作や説明書の文字を読むのに最適。拡大率1.6〜2.0倍。
参考商品例:
【Amazon】ハズキルーペ ラージモデル(日本製・軽量)
⌚ シニア向けスマートウォッチ(歩数計・心拍計)
特徴:散歩のお供に。歩数や心拍数が見やすく、生活習慣の管理に便利。
参考商品例:
【Amazon】HUAWEI Band 8(大画面・健康管理機能付き)
コメント