『夏の音、もう一度』第3章「ゆれる午後とふたりの時間」

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 午後三時、店の扉に「準備中」の札がかけられる。

 いつもより静かな日曜日、沢田澄子は店の中にある小さな時計を見ながら、奥の座敷に布団を干し、再び店内に戻った。

 「今日も来てくれるかしらね」

 そう呟いた直後、風鈴がやわらかく鳴った。

 入口に立っていたのは、石川誠一。やや薄手のジャケットを羽織り、首元にはコンパクトなデジカメがぶら下がっていた。

 「こんにちは。……邪魔じゃないかな」

 「ううん、ちょうど今、コーヒーをいれようと思ってたところ」

 ふたりは自然と、前回と同じ窓際の席に向かった。外は薄曇りだったが、風が心地よい。

 テーブルには今日も、小さなミントの葉とレース編みのコースター。澄子の細やかな気配りは変わらない。

 「今日は写真、撮ってきたの?」

 「うん。近くの公園で、蓮の花が咲いててね。季節の巡りって、本当に早いなと思ったよ」

 「私ね、そういうの最近になってようやく感じるようになったの。昔は季節なんて、仕事と家事の中で流れていくだけだった」

 「わかる気がする。退職してから、時間の流れが変わったというか……」

 「誠一さんって、きっと働いてるときから“ちゃんと感じる人”だったんじゃない?」

 「いや、それはないな。むしろ、感じている“つもり”だったのかもしれない。……今のほうがずっと、丁寧に時間を受け取ってる気がする」

 ふたりの会話は、波のように行きつ戻りつしながらも、心地よく続いていた。

 「ねぇ、カメラって難しくない? 私、機械音痴だからダメなのよ」

 「最近はね、簡単なデジカメもあるんだ。液晶に写る景色をそのまま“撮る”だけ。設定は全部オートで、ブレ補正もしてくれる」

 そう言って誠一は、バッグからコンパクトなデジカメを取り出して見せた。

 「こういうの。軽くて、シャッターも静か」

 「……それなら、私でも扱えるかしら」

 「今度一緒に、撮ってみる?」

 その提案に、澄子は一瞬だけ戸惑った表情を浮かべたが、すぐに頷いた。

 「……うん。よかったら、使い方も教えてくれる?」

 「もちろん」

 静かな午後のカフェで、小さな“教室”が始まった。誠一は操作方法を説明しながら、澄子の手にそっとカメラを渡す。

 「そのボタンを押すと……そう、それで撮れる」

 澄子は少し緊張した面持ちで、カメラを構える。そして、シャッターを押す音が静かに響いた。

 「撮れた……かしら?」

 画面には、誠一が少し照れたように笑っている写真が映っていた。

 「悪くないね。……僕の写真、こんなにやさしい雰囲気で撮られたの、初めてかも」

 「それは……モデルがいいからじゃない?」

 ふたりは声を立てて笑った。

 その声が店内にやわらかく響き、レースのカーテンが風に揺れた。

 夕方、ふたりは店を出て、近くの川沿いを散歩した。そこには、春に植えられたばかりの桜の若木が並んでいた。

 「この木も、来年には花が咲くかしらね」

 「咲くさ。手入れすれば、きっと立派に咲く」

 「……じゃあ、来年も一緒に見に来てくれる?」

 「もちろん。……その時は、写真に残そう」

 足元を見れば、小さな野花が揺れていた。

 午後の光とふたりの影が、地面にそっと重なっていた。

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