明日も、ふたりで。第4章「家族という壁」

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日曜の午後、仁は珍しくソファに座ったまま、スマホを握っていた。
画面には「未読メッセージ:息子・翔太」の文字が表示されている。

『最近、よく出かけてるみたいだけど、大丈夫?』

たったそれだけの文なのに、妙に引っかかる。

(……詮索しにきたのか? いや、心配してるだけか)

そんなことを考えながら、返信しないままスマホを伏せた。


その数日後、「ひだまり」で澄子が話し始めた。

「娘に、バレました」

「バレたって……?」

「私が誰かと一緒に喫茶店でお茶してるのを、たまたま近くの知り合いが見たらしくて。それが娘の耳に入ったんです」

「それは……気まずいですね」

「はい。でも、悪いことしてるわけじゃないって思っていたのに、『いい歳して』って、言われました」

仁はその言葉に心がざわついた。

「僕も、同じようなことがあったんです。息子から、なんとなく牽制されてる気がして」

澄子はコーヒーを口に運び、小さくため息をついた。

「お互い、子どもには説明しにくいですね。新しい関係を築くのって、年齢じゃなくて“タイミング”だと思うんですけど……」

「本当に。人を好きになることに、期限なんてないのに」

その日はお互い、少しだけ沈んだ気持ちを抱えたまま、喫茶店を出た。


翌朝、仁はホームセンターで観葉植物の寄せ植えセットを買い、澄子の家の前まで届けに行った。
インターホンを押すと、澄子が驚いたような顔で出てきた。

「こんな朝早く……?」

「昨日の話、ずっと引っかかってたんです。だから、なんか届けたくなって」

「……ふふ、ありがとうございます。ちゃんと水あげますね」

玄関先でしばらく立ち話をしたあと、仁はリュックからもう一つ、小さな箱を取り出した。

「これ、膝サポーター。最近僕も愛用してるやつです。膝、また痛くなってきたって言ってたでしょう?」

「そんな……でも、嬉しい。ちょうど買い換えようと思ってたところで」

「歳をとると、こういうのが何より嬉しいって、最近わかってきたんです」

二人の間には、言葉よりも温かい空気が流れていた。


その日の夜、仁は初めて息子にメッセージを送った。

『今度、話したいことがある』

送信ボタンを押すと、思いのほか心が軽くなった気がした。

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