人生の第2幕　第2章：失敗の連続

退職から数ヶ月が過ぎた。忠男は何度も「これから何をするべきか？」と考え続けていた。釣りが気晴らしにはなったが、それだけでは生活が成り立たない。退職金をすべて使い果たすわけにはいかないし、年金だけでは足りない。何か新しい仕事をしなければならないと感じていた。

最初に手を出したのは、釣具のネットショップだった。長年の釣り好きであったため、釣具の知識には自信があった。ネットで「釣具通販」の需要を調べ、少し手を加えれば、他のサイトと差別化できるだろうと考えた。

サイトを立ち上げるには費用がかかったが、それでも一度は自分の思いを実現したいと考え、思い切って初期投資をした。しかし、蓋を開けてみると、業界の競争は予想以上に激しく、また他の大手サイトに比べて商品の種類が少なく、集客にも苦しんだ。価格を下げれば利益が出ず、無理に安売りをしても赤字になるばかり。

3ヶ月経っても売上は伸びなかった。結局、投資したお金をすべて失い、在庫は家の中に山積みになった。忠男はその現実に、心の中で深くため息をつく。

「やっぱり、俺には経営の才能がないのか……」

心の中で、再び迷いが広がった。

次に挑戦したのは、観光釣りツアーの事業だった。自分の好きな釣りを通じて、他の人に喜んでもらえるのではないかと思ったのだ。地元の漁港や湖を利用して、釣りツアーを開催する計画を立てた。しかし、このアイディアも現実的ではなかった。自治体の許可が下りず、必要な設備や保険にかかる費用が膨大で、準備を進めるうちに「どんどん膨らんでいく計画」に圧倒されてしまった。結局、ツアーを開催することはなく、資金も時間も無駄に消えていった。

さらに、知人から勧められたのが、高級魚の養殖だった。金魚やメダカを育てるのとは違い、高級な魚を養殖する事業であれば、高値で取引されることもあり、思い切って挑戦してみることにした。

忠男は、地元の養殖業者と話をつけ、まずは小規模に始めることにした。計画は悪くないように思えた。設備も整え、飼料や水温管理についても学び、慎重に進めた。しかし、魚が病気にかかることが頻繁にあり、その度に追加の費用が発生し、飼料や水の管理に思わぬ手間もかかりすぎた。さらに、販売先が見つからず、利益を出すことができなかった。

結局、半年でその事業も諦めることになった。忠男の頭の中には、次々に浮かんでくる「失敗」の数々が渦巻いていた。起業の夢は次々に打ち砕かれ、残るのは焦燥感と心の中に積もった不安だけだった。

ある夜、妻の美智子が忠男に声をかけた。

「あなた、ずっと悩んでるみたいね。何かあったら言ってよ。」

美智子の言葉に、忠男はしばらく黙っていた。彼女の優しさが胸に響いたが、同時にそれが自分の無力さをも浮き彫りにしているような気がしてならなかった。

「俺、失敗ばっかりだな。何かやろうとしても、うまくいかない。退職後に自由な時間を持てると思ったけど、逆にどんどん焦っていってる。」

美智子は黙ってうなずき、そして静かに言った。

「でも、あまり焦らないで。あなたのペースでやってみなさい。どんな方法でも、少しずつ続けていけばきっと結果は出るんじゃない？」

その言葉を聞いたとき、忠男は心の中で少しだけ希望を感じた。自分を信じて、焦らずに何かを始めていかなければならないのだと思った。しかし、その「何か」を見つけるのは、簡単なことではない。

そして、また一つの選択肢が浮かぶ。そう、それは、かつて自分が好きだったメダカに関するものだった。