「それ、まだ使ってたんだ」
澄子さんが、古びた日記帳をそっとテーブルに置いたとき、私は思わずそう言った。
こげ茶色の革表紙に、小さな鍵のついた日記帳。
金具がほんのりくすんでいて、手に馴染んでいるようだった。
「うん。なんだかんだで、もう二十年くらい使ってるわね」
そう言って彼女は、ひと息ついてから付け加えた。
「中身は、何度も書き直してるけど」
午後の日差しが、レースカーテン越しに部屋をやわらかく照らしていた。
澄子さんの家には、こうして季節をゆっくり感じられる静けさがある。
「鍵付きの日記って、子どもみたいだと思ってたけど、
大人になるほど“誰にも見せたくないこと”って増えるのよね」
彼女の指が、金具をそっと回した。
開いたページには、細く丁寧な文字が並んでいた。
「最近はね、パスワードもこのノートに書いてるの。
スマホとか銀行とか、全部覚えきれないから」
そう言って彼女が見せてくれたのは、日記の最後に挟まれたパスワード管理用のページだった。
色分けされた見出し、小さなシール。
几帳面な性格がよく表れていた。
「アプリじゃダメなのか?」
「アプリはね、信用しきれないの。それに、紙に書いたほうが安心するのよ」
「なるほどな」
「でも、たまに“どこに書いたっけ?”って忘れるのが難点だけどね」
ふたりして笑った。
「昔の日記、読み返すことあるのか?」
私が聞くと、彼女は少しだけ考えてから、首を横に振った。
「読まない。……というか、読めないの」
「どうして?」
「書いたときの気持ちが、あまりに鮮明に戻ってきちゃって。
嬉しかったことも、悔しかったことも、今の自分が耐えきれない気がするの」
「でも、それでも残してるんだ」
「うん。……きっと、いつか読み返せる日がくる気がするから」
彼女は静かにページを閉じた。
そして、鍵をカチリと閉める音が、部屋にやさしく響いた。
「日記ってね、未来の自分に書いてるのよ。
忘れたくないけど、いまはまだ見たくないことを、
そっと預けておく場所なの」
私はその言葉が、妙に心に残った。
帰り際、玄関で靴を履いていると、彼女が手帳を差し出してきた。
「これ、あんたにいいかも」
「え?」
「簡単な予定とかメモとか、思いついたこと書いておくと、案外助かるわよ」
「なるほど、忘れる年齢だもんな」
「それもあるけど、“思い出す練習”にもなるのよ」
「……深いな」
彼女は笑いながら、玄関の灯りをつけた。
夕暮れの街は、雨上がりの匂いがしていた。
私はポケットの中に、その手帳を入れた。
鍵はついていないけれど、
たぶん、これから少しずつ、自分の言葉がそこに積もっていくのだろう。
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