📘第2話:手紙のない手紙

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「字が、少し変わったわね」
そう言ったのは、澄子さんだった。

日曜の午後、駅前のカフェ。
読みかけの本を閉じた彼女は、私が書いたメモを指差して微笑んだ。
「昔はもう少し、細くて丸かった」
私は思わず笑ってしまった。
「歳を取ると、筆圧まで変わるんだろうね」

彼女は、かすかに首を振った。
「ううん、たぶん、心が変わったのよ」
そう言って、紙ナプキンの端をちぎった。


澄子さんには、秘密がある。
それは「出さない手紙」を書き続けていること。

きっかけは、偶然だった。
去年の夏、彼女の部屋で本棚を整理していたとき、小さな箱を見つけた。
古い万年筆と、便箋が束ねられていた。

「それ、見る?」
不意に声がして振り返ると、彼女が肩越しにのぞいていた。
私は何も言えずに立ち尽くした。
でも彼女は、ほんの少し微笑んでうなずいた。


「たぶん、もう十年以上になるの。出さない手紙を書くようになって」
そう言って彼女は、ソファに腰をおろした。

書く相手は、いろいろらしい。
亡くなった母へ、別れた人へ、自分の若かった頃へ。
そして——
「最近はね、あんたにも書いてる」
と、彼女はさらりと言った。

「えっ」
私の口から、情けない声がもれた。

「大丈夫よ。悪口は少なめだから」
そう言って笑う彼女に、私は何も返せなかった。


その日から、私は筆記具に少しだけ興味を持つようになった。
彼女が使っているのは、細身の万年筆。
手になじむように削られた木軸に、柔らかなインクの匂い。
文字を綴るたび、時間がゆっくりと流れるようだった。

「最近は老眼もあってね、ルーペ付きの便箋にしたの」
そう言って彼女が見せてくれたのは、淡い藤色のレターセットだった。
罫線が太く、ほんの少し文字が浮き上がって見える特殊加工がされていた。


「書くって、いいものね」
紅茶を飲みながら、彼女はつぶやいた。

「書くことで、自分のことがわかるのよ。
思ってるよりずっと、私は寂しがりで、怒りんぼで、弱い人間だったって」

私は何も言わず、彼女の手元を見つめていた。

その便箋には、書きかけの言葉がいくつか並んでいた。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「また会いたい」

彼女がそれを誰に書いているのか、私は聞かなかった。


その帰り道。
私は文房具店に立ち寄り、
同じ万年筆と、似たような便箋を買った。

文字は、たしかに少し変わったかもしれない。
でも、それでいい。
歳を重ねて変わったぶんだけ、書きたいことも増えたのだと思う。


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