「字が、少し変わったわね」
そう言ったのは、澄子さんだった。
日曜の午後、駅前のカフェ。
読みかけの本を閉じた彼女は、私が書いたメモを指差して微笑んだ。
「昔はもう少し、細くて丸かった」
私は思わず笑ってしまった。
「歳を取ると、筆圧まで変わるんだろうね」
彼女は、かすかに首を振った。
「ううん、たぶん、心が変わったのよ」
そう言って、紙ナプキンの端をちぎった。
澄子さんには、秘密がある。
それは「出さない手紙」を書き続けていること。
きっかけは、偶然だった。
去年の夏、彼女の部屋で本棚を整理していたとき、小さな箱を見つけた。
古い万年筆と、便箋が束ねられていた。
「それ、見る?」
不意に声がして振り返ると、彼女が肩越しにのぞいていた。
私は何も言えずに立ち尽くした。
でも彼女は、ほんの少し微笑んでうなずいた。
「たぶん、もう十年以上になるの。出さない手紙を書くようになって」
そう言って彼女は、ソファに腰をおろした。
書く相手は、いろいろらしい。
亡くなった母へ、別れた人へ、自分の若かった頃へ。
そして——
「最近はね、あんたにも書いてる」
と、彼女はさらりと言った。
「えっ」
私の口から、情けない声がもれた。
「大丈夫よ。悪口は少なめだから」
そう言って笑う彼女に、私は何も返せなかった。
その日から、私は筆記具に少しだけ興味を持つようになった。
彼女が使っているのは、細身の万年筆。
手になじむように削られた木軸に、柔らかなインクの匂い。
文字を綴るたび、時間がゆっくりと流れるようだった。
「最近は老眼もあってね、ルーペ付きの便箋にしたの」
そう言って彼女が見せてくれたのは、淡い藤色のレターセットだった。
罫線が太く、ほんの少し文字が浮き上がって見える特殊加工がされていた。
「書くって、いいものね」
紅茶を飲みながら、彼女はつぶやいた。
「書くことで、自分のことがわかるのよ。
思ってるよりずっと、私は寂しがりで、怒りんぼで、弱い人間だったって」
私は何も言わず、彼女の手元を見つめていた。
その便箋には、書きかけの言葉がいくつか並んでいた。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「また会いたい」
彼女がそれを誰に書いているのか、私は聞かなかった。
その帰り道。
私は文房具店に立ち寄り、
同じ万年筆と、似たような便箋を買った。
文字は、たしかに少し変わったかもしれない。
でも、それでいい。
歳を重ねて変わったぶんだけ、書きたいことも増えたのだと思う。
🛍 登場アイテムの紹介
◉ 澄子さんが使っていた「ルーペ付き便箋セット」
📌文字が浮き出る加工で、視力が弱い方にも書きやすい
📌落ち着いた和風カラー(藤、紺、抹茶など)
📌便箋・封筒セットでプレゼントにも最適
◉ 長く使える木軸の万年筆
📌書くたびに手に馴染む天然木素材
📌インクの滑らかさと美しい筆跡
📌ギフトボックス入りで大切な人への贈り物にも