『秋、ふたりで歩く道』第2章:静かな美術館の午後

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 駅から歩いて十五分ほど、小高い丘の上に建つ小さな美術館は、町の芸術祭の一環として開放されていた。
 入口の木製ドアを押すと、木の香りと、ほんのり漂う絵具のにおいが鼻をくすぐった。足元はすべて木の床で、歩くたびに控えめな音がする。その静けさが、空気をやわらかく包んでいた。

「ここ、何年か前にリニューアルされて。町の若い芸術家たちの展示も増えたんですよ」
 先ほど駅で出会った男性――名前はまだ聞いていない――が、そう言ってドアを支えてくれた。
 真理子は軽く会釈し、ゆっくりと館内に入る。

 展示室は広くはないが、ひとつひとつの作品が丁寧に飾られていた。油彩画、水彩画、陶芸、小さな彫刻……どれも、どこか生活に寄り添うような温かさを感じさせる。窓の外には、紅葉に染まった木々が額縁のように見えていた。

 ふたりはそれぞれのペースで展示を見ていた。ときどき近くに立って、目線が交わると、小さな笑みがこぼれる。それだけで、言葉が要らないように思えた。

「これ、好きです」
 真理子が立ち止まったのは、一枚の水彩画の前だった。
 描かれていたのは、小雨に濡れた駅のホーム。傘を差す人の影、遠くに霞む山。
 どこか懐かしいような、けれど遠い夢のような印象。

「しっとりしてて……なんだか、静かに話しかけてくる気がして」

「雨の風景って、音があるのに静かですよね。……心の中と似てる気がします」

 男性の言葉に、真理子は思わず頷いた。
 名前を知らなくても、話すことが少なくても、この人とは感覚が似ている――そんな不思議な安心感があった。

 展示の最後に並んでいたのは、地元の小学生たちの絵だった。絵の題名は、どれも手書きで添えられている。

『ぼくの家のまえのもみじ』
『おじいちゃんのめがね』
『しんしゅうのあき』

 飾られているそれらの絵は、どれも不器用で、でも鮮やかで、どこまでも素直だった。

「……見てると泣けてきそう」

 真理子がぽつりと言うと、男性は静かに頷いた。

「純粋な目には、世界がこんなふうに見えるんですね。……いつの間にか、私たち、大事なものをいくつも見逃してるのかもしれない」

「……そうですね」

 そのあと、ふたりはしばらく何も言わずに並んで立っていた。

 館内のカフェスペースに移動すると、地元の野菜を使った小さなスープと焼きたてのパンが香っていた。真理子は、かすかに笑って口を開いた。

「こんな場所があるなんて、来てよかったです」

「よかった。お誘いして」

 カップを持った手が重なりそうになるのを、そっと避けるように持ち直す。それに気づいた彼も、何も言わなかった。ただ、微笑だけがそこにあった。

「……あの、もし差し支えなければ、お名前を」

「真理子といいます。今井真理子」

「私は、佐野誠といいます」

 ふたりの名が、午後の光の中で交わった。

 真理子はそのとき、ほんのわずかだが、心の奥に張っていた薄い膜がひとつ、音もなく剥がれた気がした。



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