『春の風が、名前を運ぶ日』第1章「ベンチの隣に咲いた花」

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 春の風は、冬の冷たさをやさしく押し返すように町を撫でていた。

 公園の並木道では、早咲きの桜がぽつぽつと花を開き、ベンチのそばでは小さなチューリップが陽射しを浴びていた。

 「春って、こんなにやわらかかったかしら……」

 江原久美子は、図書館の仕事が休みの日に散歩へ出かけることを習慣にしていた。

 今日はその途中、かつて健一と偶然座ったあのベンチに、足を向けてみたのだった。

 久しぶりに訪れたその場所には、見覚えのある後ろ姿があった。

 「……健一さん?」

 彼は、春色のマフラーを首に巻いて、ゆっくりと振り向いた。

 陽の光の中、その笑顔はどこか照れくさそうだった。

 「やっぱり、来ると思ってました」

 「え……?」

 「この季節になれば、久美子さんはここに来るんじゃないかって」

 少しだけ、間を置いて「久美子さん」と名前で呼ばれた瞬間、彼女の胸が少しだけ高鳴った。

 「……それ、初めて呼ばれた気がします」

 「ええ。いつかちゃんと呼びたいと思ってたんです」

 ベンチにふたり並んで座ると、沈黙が一瞬だけ流れた。けれど、それは居心地のいい静けさだった。

 「図書館の桜も、そろそろですね」

 「はい。今年は装飾をちょっと早めに始めようと思っていて……よかったら、手伝っていただけませんか?」

 「もちろん。久美子さんの“春支度”に、お供させてください」

 健一の返事に、久美子はそっと頬を緩めた。

 そのとき、ふと足元に目を向けると、ベンチのすぐ脇に、去年は見かけなかったチューリップが咲いていた。

 「……このチューリップ、いつの間に」

 「去年、図書館の帰りに球根を植えたんです。あなたが見つけてくれたら嬉しいなと思って」

 久美子は驚いて、彼を見つめた。

 けれど、彼は照れ隠しのように空を見上げた。

 「春って、去年の“種”が咲く季節なんですよね。だから、ちょっとだけ、試してみたかったんです」

 「……咲きましたね」

 「ええ。よかったです、本当に」

 ベンチの隣に咲いた花は、ふたりの時間が確かに“積み重ね”であることを、やさしく証明していた。

 午後の風は、花びらをふわりと揺らしていた。

 もうすぐ本格的に春がやってくる——その気配が、そこかしこに漂っていた。

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