蝉の声が少しだけ遠のいたある日。
町の空気は、夏の終わりを告げるように柔らかく、涼やかだった。
「誠一さん、これで三回目の“出勤”ね」
「出勤なんて言うと、緊張しちゃうよ」
ふたりは笑い合いながら、商店街の八百屋から戻ってきた。
エコバッグの中には、新鮮なナスとトマト、そして澄子の好きな青じそが詰まっていた。
「あなたって、野菜を選ぶの、ほんと丁寧ね」
「写真と同じだよ。“いい顔してる”やつを選ぶのさ」
昼過ぎ、店を開ける準備をしながら、澄子がふと立ち止まった。
「ねえ、来週の日曜、時間ある?」
「あるよ。なんか予定?」
「……昔、夫とよく行ってた喫茶店が郊外にあって。閉店するって聞いたの。最後にもう一度行っておきたくて」
「それって、ひとりで行くつもりだった?」
「ううん。正直に言うと、“ひとりで行く勇気が出なかった”。……だから、一緒に来てくれたら、うれしい」
誠一は、迷わずうなずいた。
「もちろん。大切な場所なら、ぜひ一緒に」
ふたりはその日、閉店後に風椅子の窓際でアイスコーヒーを飲んだ。
陽が少しだけ傾き、部屋の中に長い影が伸びる。
「ねえ、誠一さん」
「ん?」
「こうしてるとね、“この先”って言葉が、少しだけ現実味を帯びて聞こえるの」
「“この先”って?」
「たとえば、今の暮らしに、あなたが少しずつ関わってくれてること。来週の日曜の予定も。“また来てくれる?”って、聞かなくても思えること」
「それって……つまり、“一緒に過ごしていきたい”ってことかな」
澄子は小さくうなずいた。
「焦らなくてもいい。無理に言葉にしなくてもいい。でもね、こういう日々を大事にしたいなって思える相手が、あなたでよかったって思ってる」
誠一は、手元のグラスをゆっくり置いた。
「……僕も同じ気持ちだよ。今の時間が、あったかくて、静かで、嬉しくて。……こんな日々を、もう少し先まで見ていたい」
風が店内を抜け、ふたりの言葉をやさしく撫でた。
外では、ツクツクボウシが最後の力を振り絞るように鳴いていた。
この夏の音は、ふたりだけの記憶になった。
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