八月も終わりに近づいたある日。
石川誠一は、澄子の店「風椅子」に、ひとつの小さな包みを持って現れた。
「はい、これ。ちょっとした贈り物」
「……え、なに?」
「まぁ、開けてみてよ」
澄子は包みを開き、中から出てきたのは淡いベージュ色のストールだった。軽くて通気性の良さそうな素材。端には、小さなカメラの刺繍が施されていた。
「これ……」
「撮影のとき、首元が日に焼けると気になるって言ってたから。涼しい素材のやつ、探してみたんだ」
「ありがとう……本当に。そんなこと覚えててくれたなんて」
「澄子さんの言葉って、意外と残るんだよ。不思議と」
ふたりはそれ以上、言葉を重ねなかったが、静かに流れる時間がその代わりとなっていた。
「——澄子さん」
「ん?」
「……あ、ごめん。いや、なんでもない」
「なあに、急に?」
「いや、その……“澄子さん”って、呼び慣れてなくてさ」
「ふふ。じゃあ、慣れるように、たくさん呼んでもらわないと」
誠一は少し照れたように頷いた。
その日、ふたりは店を閉めたあと、町の文化会館で開催されている写真展を見に行った。地元の人々が出展した作品が、壁一面に飾られていた。
「あっ、これ。あなたの?」
「うん。出してみた。……『風の午後』ってタイトル」
「……風椅子の窓辺?」
「正解」
写真には、レースのカーテンが風に揺れ、テーブルの上のコーヒーカップが微かに影を落としていた。
「やっぱり、やさしいね。あなたの写真」
澄子はそう言って、静かに写真の前で立ち止まっていた。
帰り道、公園のベンチでひと休みしながら、澄子がぽつりと口を開いた。
「——私ね、名前を呼ばれるの、ずっと避けてたの」
「避けてた?」
「夫が亡くなってから、“澄子”って呼ばれるたびに、なんだか心が揺れてしまって。でも、あなたが“澄子さん”って呼んだとき、少しだけ……嬉しかったの」
誠一は何も言わず、そっとその言葉を胸にしまった。
「だったら、これからも時々、呼ばせてもらおうかな」
「……うん。じゃあ、私も」
「ん?」
「“誠一さん”って、呼んでいい?」
「もちろん」
言葉のやりとりが、どこか新しい季節のはじまりのように感じられた。
その帰り、澄子はひとつの提案をした。
「誠一さん、よかったら、週に一度だけ……うちの手伝い、来てくれない?」
「え?」
「難しいことじゃないの。買い出しとか、写真撮影とか。あと……一緒にお茶飲むだけでもいいから」
「それって、“仕事”になるの?」
「ううん、“頼みごと”。……あなたと過ごす時間を、ちょっとだけ“暮らし”にしたいの」
風が、ふたりのあいだをやさしく吹き抜けた。
📦 第4章に登場したおすすめアイテム紹介
この章では、ふたりの距離が少しずつ縮まり、実用的で心に残るアイテムが登場しました。
🧣 UVカット・夏用ストール(軽量・肌触りやさしい)
特徴:首元の日焼け防止に。通気性が高く、デザインも控えめで使いやすい。
参考商品例:
【Amazon】UVカット接触冷感ストール(リネン混・春夏用)
🖼️ フォトフレーム(ナチュラル木目・A4対応)
特徴:思い出の写真を飾るのに最適。自宅での展示やプレゼントにも。
参考商品例:
【Amazon】A4サイズ 木製フォトフレーム(壁掛け・卓上両用)
🪑 ベンチクッション付き折りたたみチェア(高齢者向け)
特徴:公園や屋外でも快適に座れる。背中にやさしい構造。
参考商品例:
【Amazon】キャプテンスタッグ 折りたたみチェア(背もたれ・クッション付き)
コメント