日が暮れると、町の空気がひんやりと変わった。駅前の広場では地元の小さな夏祭りが始まり、子どもたちの声が飛び交っていた。提灯のやわらかな光が風に揺れ、短冊に書かれた願いごとが涼風にさらさらと踊っている。
「ほら、見て。あの短冊、面白いわよ」
純子が指差したのは、「ぼくはヒーローになる!」と大きく書かれた短冊。隣には、「おかあさんがずっと元気でいてくれますように」の文字。
「……願いごとって、素直でいいな」
「うん。自分の心の中を、誰かに預けるみたいで」
ふたりはゆっくり歩いた。すぐ近くの仮設ステージでは、地元のブラスバンドが『見上げてごらん夜の星を』を演奏していた。優しいメロディが、夜空と観客の心を包んでいく。
「——誠一さん、今日はありがとう」
唐突にそう言った純子の声には、どこか静かな決意があった。
「どうして?」
「きっと、誰かと並んで歩くなんて、もうないと思ってたから。でも、こうして並んで歩けるって、心のどこかが柔らかくなるのね。あなたと話して、気づいたの」
誠一は一瞬、言葉を選んだ。そして、ゆっくりと応えた。
「僕も……純子さんと話せて、過去と向き合えた気がする。思い出すことが、こんなにあたたかいなんて思ってなかった」
夜空に、ひゅうっと音が響いた。打ち上げ花火だった。数秒後、赤、緑、金の光が空に咲いた。
「綺麗ね……」
「……うん。君の隣で見る花火が、一番綺麗かもしれない」
照れ隠しのように誠一が呟くと、純子は少し笑った。だがその目元には、うっすらと涙が滲んでいるようにも見えた。
「……明日ね、朝から店の冷蔵庫の修理があるの。ずっと調子が悪くて、買い替えようか迷ってたけど、あなたが“また来るよ”って言ってくれたから、直すことにしたの」
「そっか……それ、嬉しいな」
「だから……よかったら、本当に、また来てくれる?」
「うん。もちろん。むしろ、また来る理由ができて嬉しいよ」
小さな決意。それは、派手なものじゃない。でも、誰かと未来の約束を交わすことは、人生に新しいページをめくるような行為だと、誠一は思った。
ふたりは最後の花火を見上げた。大輪の白い光が空を満たし、そして静かに闇へと溶けていった。
「……じゃあ、またね」
「うん。次は、もう少し早く会おう」
夜風に揺れる短冊に、ひとつだけ新しい願いが加わっていた。
《また来年も、この場所で笑っていますように》
『夏の音、ひとつぶ』
作中登場商品紹介
物語の中で自然に登場した「さりげない日用品」や「暮らしの工夫」を、以下にまとめました。
どれも、シニア世代の夏の暮らしにぴったりのアイテムです。
① 涼感シャツ(接触冷感・吸汗速乾タイプ)
登場場面:誠一が旅に出る際に取り出した、亡き妻が買ってくれたシャツ。
おすすめ理由:
通気性が高く、汗をかいてもすぐ乾く。夏の移動や外出にも快適。デザインもシンプルで、年齢問わず使える。
🛒 参考商品例:
【Amazon】グンゼ 涼感コンフォートシャツ(メンズ・接触冷感タイプ)
② 軽量老眼鏡(おしゃれフレーム)
登場場面:純子が使用していた洒落た老眼鏡。
おすすめ理由:
文字が読みやすく、長時間かけていても疲れにくい軽量タイプ。デザインが洗練されていて、見た目にも好印象。
🛒 参考商品例:
【Amazon】Zoff SMART シニアグラス(軽量・UVカットレンズ)
③ ポータブルラジオ(AM/FM対応)
登場場面:誠一が電車の中で聞いていたラジオから、懐かしい音楽が流れる。
おすすめ理由:
移動中の気分転換や、静かな午後のBGMにぴったり。高齢者でも扱いやすいボタン設計のモデルも多い。
🛒 参考商品例:
【Amazon】SONY ポケットラジオ ICF-P36(単三電池対応)
④ 通気性のよいサンダル(滑りにくいタイプ)
登場場面:誠一が海辺の町を歩く際に使用。
おすすめ理由:
足元が蒸れにくく、滑りにくい設計。散歩やちょっとした外出にも安心で、旅先でのリラックスにも最適。
🛒 参考商品例:
【Amazon】crocs(クロックス)LiteRide(軽量サンダル)
⑤ 電動かき氷機(家庭用)
登場場面:純子の喫茶店で登場。「ふわふわ」の氷でいちごミルクを提供。
おすすめ理由:
氷がふんわり削れ、家庭でも喫茶店のような本格的な味わいに。シロップや練乳をかければ、夏の団らんが楽しくなる。
🛒 参考商品例:
【Amazon】ドウシシャ 電動ふわふわかき氷器(レトロデザイン・家庭用)
以上が本作に登場した商品たちです。
それぞれが「ふたりの記憶」や「心のぬくもり」をそっと彩るアイテムとして、物語の一部となっています。
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