「どうぞ、遠慮なく入ってくださいな。こたつだけは立派なんですから」
久美子の家に、健一が初めて足を踏み入れたのは、小雪が舞う静かな午後だった。
小さな平屋の家は、築年数こそ古いが、玄関先に置かれた鉢植えや、干し柿が吊るされた軒下が、どこか懐かしさを醸し出していた。
「うわ……本当に、立派なこたつですね。脚がしっかりしてる」
「父の代から使ってるんです。重たいけれど、冬になるとやっぱりこれじゃないと」
健一は、ソファの代わりに置かれた座椅子に腰をおろし、足をこたつに潜り込ませた。
そして、部屋の隅に置かれた石油ストーブに目をやる。
「このストーブも懐かしいな。僕の実家にも、同じ型がありました」
「音がしますけど、あの“ゴー”って音がなんだか落ち着くんですよね」
ふたりは、湯気の立つ湯呑を手に取った。中身は、黒豆茶。
ふわりと甘い香りが漂い、身体の芯からじんわりと温まる。
しばらく静かな時間が流れたあと、健一がふと、湯呑を置いた。
「……久美子さん。ひとつ、聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「あなたは、ずっとこの町で暮らしてきたんですか?」
久美子は小さくうなずいた。
「はい。でも、一時期は東京にもいました。結婚していたとき、数年間だけ」
「そうなんですね……」
「でも、離婚して戻ってきました。地元のこの家が、私にとって“呼吸しやすい場所”だったんです」
健一はうなずいた。
「……僕は、妻を早くに亡くしました。娘ももう自立していて、今は仙台にいます」
「……そうだったんですね」
ふたりは、互いの目をそっと見つめ合った。
どちらも、過去にいくつかの別れを経験してきた。けれど今、こうして“現在”の隣に座っている。
「歳を重ねると、失うことが多くなります。でも……それ以上に、“残るもの”もあるんだって、最近は思うようになりました」
「たとえば?」
健一は、久美子の湯呑を指差した。
「たとえば、その黒豆茶。誰かのために淹れる気持ちとか、こうして膝を向け合わせて話す時間とか」
久美子は、ふっと笑った。
「……じゃあ、私はあなたの“残ったもの”になれてるんでしょうか?」
「ええ、なっています」
こたつの中で、ふたりの足先がほんの少し触れた。
陽が傾きはじめ、ストーブの火が少しだけ強く揺れた。
健一が帰り支度をはじめると、久美子が玄関でマフラーを巻いてやった。
「これで、少しはあったかくなりますよ」
「……ええ、心も、です」
凍てつく外気の中、玄関の灯りだけがやわらかくふたりを照らしていた。
冬の夜は長い。でも、その中にある小さな温もりは、何よりも頼もしい。
📦 第4章に登場したおすすめアイテム紹介
この章では、冬の家庭のぬくもりを演出するアイテムが多数登場しました。
🏠 こたつセット(ヒーター+布団+テーブル)
特徴:手元操作、弱中強の3段階切替。高齢者の部屋にも設置しやすい小ぶりサイズ。
参考商品例:
【Amazon】山善 一人用こたつセット(正方形・省スペース)
🔥 石油ストーブ(手動点火・ノスタルジックデザイン)
特徴:暖かさと音に癒される。灯油タイプながら臭いが少ない人気型。
参考商品例:
【Amazon】トヨトミ レトロ石油ストーブ(ダークグリーン/自然通気型)
🍵 黒豆茶(ノンカフェイン・ポリフェノール豊富)
特徴:香ばしくてほんのり甘い。温活・血行促進にも◎
参考商品例:
【Amazon】国産黒豆茶(ティーバッグタイプ・30包)
コメント