冷たい風が図書館の窓を揺らしていた。
その日、江原久美子はカウンター業務の合間を縫って、小さな箱を包んでいた。
淡いグレーの包装紙に、細い赤いリボン。冬らしい、やさしい組み合わせだった。
その中身は——手編みのマフラー。
「こんなふうに人に何かを贈るなんて、久しぶり……」
呟いた久美子の頬は、ほんのり赤らんでいた。
きっかけは、数日前の暖炉の部屋での会話だった。
「寒くなると、やっぱり首元が冷えますね」
「昔、母がマフラーを編んでくれたことを思い出します。……あれ、どこにしまったかな」
そのとき、久美子の胸の奥に灯ったのだ。——今度は自分が“誰かの冬を包みたい”と。
図書館を閉めた夜、彼女はストーブの前に毛糸を広げ、ひと目ひと目に思いを込めながら編み続けた。
老眼鏡をずらしながら、それでも針の進みは心地よかった。
その日、森田健一は少し遅れて図書館に現れた。
手には、白い封筒がひとつ。どこか緊張した様子だった。
「すみません、遅くなって。……ちょっと、ひとつ渡したいものがあって」
久美子が目を瞬くと、健一は照れくさそうに封筒を差し出した。
「手紙です。最近、“直接言えないことは書く”というのが癖になってしまいまして」
久美子は少し笑いながら、静かにそれを受け取った。
「ありがとうございます。……じゃあ、私からも」
彼女は、先ほど包んだマフラーの箱を取り出した。健一は思わず目を見開いた。
「え……これは?」
「マフラーです。あのときのお話、覚えていて……よかったら、使ってください。少しだけ、あなたの冬を温めたくて」
箱を開けると、そこには温かみのある濃いグレーのマフラーが、やわらかく折りたたまれていた。
目は不揃いだが、整いすぎていないその編み目こそ、彼女の“手の時間”そのものだった。
「……大切にします。本当に、ありがとうございます」
ふたりは、向かい合ったまま黙った。けれど、言葉以上に心は通っていた。
その夜、久美子はひとりで封筒を開いた。
久美子さんへ
寒い季節になると、ふと人恋しくなりますね。
誰かに会いたい、声が聞きたい、ぬくもりが欲しい。……そんな当たり前の欲求を、ようやく自分に許せるようになりました。
あなたと話すたび、心のどこかが少しずつ柔らかくなっていくのを感じます。
“もう一人で頑張らなくていい”と、誰かが教えてくれているような感覚です。
どうか、あなたの冬が寂しさに染まりませんように。
できれば、そこに僕が、そっと寄り添えますように。
健一
その手紙を読み終えた久美子は、ひとつ息をついたあと、編み物かごを引き寄せた。
次に編むのは——自分用のマフラー。今度は、彼の隣でつけるためのもの。
窓の外では、初雪が静かに舞いはじめていた。
📦 第2章に登場したおすすめアイテム紹介
この章では、思いを形にする“贈り物”と、“言葉を届ける道具”が登場しました。
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