それから数日、高梨弘と工藤澄子は、午後の公園で何度か顔を合わせた。
最初は挨拶だけだったのが、次第に言葉を交わすようになり、やがてベンチの隣に座るのが自然になった。
話すことは、いつもささいなことばかりだった。
風のこと、季節のこと、好きだったテレビ番組の話。
ふたりとも、慎重に距離を測りながらも、居心地のよい間合いを探っていた。
ある日、弘がふと口にした。
「このベンチ、昔から好きだったんです。音楽室の窓から見えた木が、ちょうどここの木と同じ種類で……それだけで、安心するというか」
澄子は、うんうんと頷いていた。
だが、彼女の目はどこか遠くを見ていた。
「私は、この場所、少しだけ苦手なんです」
弘は少し驚いたように顔を上げた。
「苦手、ですか?」
「ええ。昔、息子が小さい頃にここでよく遊ばせてたんですけど、あるとき他の子どもたちと喧嘩になって……。あの日以来、なんだか胸がチクチクして」
弘は、少し言葉を失った。
「そうだったんですね。てっきり、ここがお好きなのかと……」
その日は、なんとなく会話が途切れがちだった。
弘は本を読み、澄子はメモ帳を開いたが、どちらも集中していなかった。
「……すみません。つまらないこと、言っちゃいましたね」
「いや、そんな。むしろ、教えてくださって、ありがとうございます」
弘はそう言いながら、胸の中に引っかかるものを感じていた。
“同じ場所を見ていても、同じ気持ちにはなれない”——その当たり前のことに、少しだけ戸惑っていた。
帰り道、弘は空を見上げた。
夕陽が町の輪郭を金色に縁取っていた。
すれ違いは、悪いことではない。
ただ、それを“遠さ”にしてしまうか、“違い”として受け止められるかで、関係は変わるのだと思った。
次の日も、弘は公園に来た。
けれど、澄子は現れなかった。
ベンチにひとりで座る時間は、少し長く感じた。
鳥の声も風の音も、どこか遠くで鳴っているように思えた。
だが、それでも、彼は決めていた。
「ここで待つ」ということを。
同じ景色を、違う思い出を抱えたふたりで見られる日が来ると信じて。
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