『ゆっくり歩こう、ふたりで。』第2章「すれ違いと、おなじ景色」

ブログ

 それから数日、高梨弘と工藤澄子は、午後の公園で何度か顔を合わせた。

 最初は挨拶だけだったのが、次第に言葉を交わすようになり、やがてベンチの隣に座るのが自然になった。

 話すことは、いつもささいなことばかりだった。

 風のこと、季節のこと、好きだったテレビ番組の話。

 ふたりとも、慎重に距離を測りながらも、居心地のよい間合いを探っていた。

 ある日、弘がふと口にした。

 「このベンチ、昔から好きだったんです。音楽室の窓から見えた木が、ちょうどここの木と同じ種類で……それだけで、安心するというか」

 澄子は、うんうんと頷いていた。

 だが、彼女の目はどこか遠くを見ていた。

 「私は、この場所、少しだけ苦手なんです」

 弘は少し驚いたように顔を上げた。

 「苦手、ですか?」

 「ええ。昔、息子が小さい頃にここでよく遊ばせてたんですけど、あるとき他の子どもたちと喧嘩になって……。あの日以来、なんだか胸がチクチクして」

 弘は、少し言葉を失った。

 「そうだったんですね。てっきり、ここがお好きなのかと……」

 その日は、なんとなく会話が途切れがちだった。

 弘は本を読み、澄子はメモ帳を開いたが、どちらも集中していなかった。

 「……すみません。つまらないこと、言っちゃいましたね」

 「いや、そんな。むしろ、教えてくださって、ありがとうございます」

 弘はそう言いながら、胸の中に引っかかるものを感じていた。

 “同じ場所を見ていても、同じ気持ちにはなれない”——その当たり前のことに、少しだけ戸惑っていた。

 帰り道、弘は空を見上げた。

 夕陽が町の輪郭を金色に縁取っていた。

 すれ違いは、悪いことではない。

 ただ、それを“遠さ”にしてしまうか、“違い”として受け止められるかで、関係は変わるのだと思った。

 次の日も、弘は公園に来た。

 けれど、澄子は現れなかった。

 ベンチにひとりで座る時間は、少し長く感じた。

 鳥の声も風の音も、どこか遠くで鳴っているように思えた。

 だが、それでも、彼は決めていた。

 「ここで待つ」ということを。

 同じ景色を、違う思い出を抱えたふたりで見られる日が来ると信じて。

📦 第2章に登場したおすすめアイテム紹介

心のすれ違いや静かな時間を過ごす際にも、穏やかな暮らしを支えるアイテムを紹介します。

📔 気持ちを綴る一行日記帳

特徴:毎日たった一言を書くだけで、心の整理ができる。日付なしタイプもあり。

参考商品例:

【Amazon】ほぼ一行日記帳(シンプルフォーマット・365日分)

👓 老眼鏡付きブックリーダー(LED付き)

特徴:夕方や外でも読みやすく、軽量で持ち運びしやすい。

参考商品例:

【Amazon】LEDライト付きブックリーダー(折りたたみ式・拡大レンズ内蔵)

🧣 シニア向けストール(肌触りのよい薄手素材)

特徴:春秋の肌寒さに。日差し除けとしても重宝。男女兼用。

参考商品例:

【Amazon】やわらかガーゼ風ストール(綿100%・軽量・40×180cm)

コメント

タイトルとURLをコピーしました