七月のはじめ。
夏の日差しが少しずつ強まり、図書館の庭ではアジサイの色が徐々に褪せ始めていた。
森田健一は、いつものベンチに座っていた。今日は少し早めに来た。
腕時計を見るふりをしながら、ゆっくりと呼吸を整える。
しばらくして、やわらかな足音が近づいてくるのを感じた。
「こんにちは、健一さん。今日も早いのね」
「こんにちは、久美子さん。……今日は、話したいことがあって」
久美子が静かにベンチに腰を下ろす。風がふたりの間を吹き抜け、木々の葉がささやくように揺れた。
「何か、ありました?」
健一は胸ポケットから、封筒を一枚取り出した。
「これ……小さな写真集なんです。ここで撮った花や、空の写真をまとめたもの。よかったら、受け取ってもらえますか?」
久美子は封筒を受け取り、ページをそっとめくった。
そこには、いつもの庭のベンチ、読書中の彼女の後ろ姿、ミントの植木鉢、風に揺れるレースカーテン越しの図書館の風景——。
すべて、ふたりが“共有してきた時間”の記録だった。
「……どれも、優しい写真」
「僕にとっては、“咲いた花”みたいなものでした。ゆっくり、でも確かに育って、こうして形に残った」
久美子はしばらく沈黙し、そして静かに言った。
「ありがとう。私……この春までは、自分の暮らしに“もう何も咲かない”と思っていたの。でも違ったのね。“待っていれば咲く花”も、あるんだって気づけました」
「それは……僕にとっても、同じです」
しばらくふたりは言葉なく、風に揺れる木陰の中で、写真集のページを眺め続けた。
やがて久美子が、そっと口を開く。
「この先の予定……少し、共有していきませんか?」
「共有、ですか?」
「はい。予定表みたいにきっちりじゃなくていいんです。たとえば、“来週もまたこのベンチで会おう”とか、“今度、一緒に新しい本を探しに行こう”とか」
健一は笑って頷いた。
「それなら、僕はひとつ提案があります」
「なにかしら?」
「今年の秋、庭のコスモスを一緒に植えませんか? 咲くのは少し先だけど、それを楽しみに待つのも、いいかもしれない」
「……ええ。きっと、とてもいい秋になりますね」
ふたりの影が地面に寄り添うように並び、やがて風の中に溶けていった。
ゆっくり咲く花のように、ふたりの関係もまた、静かに美しく開いていくのだった。
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