六月の終わり、図書館の庭にはアジサイが咲きそろい、小さな虫たちがその間を飛び交っていた。
曇り空でも蒸し暑く、梅雨らしい湿気が肌にまとわりつく午後。森田健一は、いつものベンチに座っていた。
その隣に、今日は先に久美子がいた。
「こんにちは、健一さん。今日は、ちょっとだけ待ってました」
「じゃあ、今日は僕が“後から来た人”ですね」
ふたりはそれだけで笑い合った。
木陰のベンチはいつもより少し涼しく、すぐ脇に置かれた植木鉢のミントが、やさしい香りを漂わせていた。
「ここの植物、手入れされてるんですね」
「ええ、週に一度だけボランティアさんが来てくれるんです。……私も少し手伝ってます。剪定だけですけど」
「へえ……」
健一は、ふと問いかけるように彼女の横顔を見つめた。
「こうして植物を見ていると、なんだか安心しますね。花が咲く日を待つだけで、人の気持ちってずいぶん救われるものなんですね」
「……そうかもしれません。咲いてくれたら、もちろん嬉しい。でも、それ以上に“待つ時間”の方が、意味がある気がして」
「なんだか、人生みたいですね」
久美子は少し笑い、植木鉢に視線を落とした。
「私はね、夫が亡くなったあと、数年間はずっと“咲かない花”みたいな気持ちだったの。何をしても、色が足りないような」
「……わかる気がします。僕も、父の介護を見送ったあと、ぽっかり心に穴が開いたままでした」
ふたりは言葉を交わしながら、風に揺れるアジサイの葉を静かに見つめていた。
「だから、こうやって誰かと花の話をしてること自体、ずいぶん前向きになった証拠だと思うんです」
「ええ。本当に」
久美子は小さな剪定バサミを取り出し、枝先の枯れかけた葉をひとつ切った。
「このハサミ、電動なんですよ。少し握力が弱くなっても扱いやすくて。……私が“また植物を触ろう”って思えたのは、これのおかげかも」
「へぇ、便利な道具ですね」
「道具が支えてくれることで、心が動くことってありますよね。年を取ってからは、特にそう思います」
ふたりの手元には、読みかけの本と小さな水筒。
久美子はその水筒をそっと差し出した。
「お茶、いかがですか? 今日はミントとレモングラスのブレンドです」
「ありがとうございます。……この香り、すごく落ち着きますね」
「ね。私、こういう“手のひらの安心”みたいなものを、少しずつ暮らしに増やしたいと思ってるんです」
「じゃあ……僕も、それに付き合っていいですか?」
久美子は驚いたように目を丸くし、それから穏やかにうなずいた。
「もちろんです。ゆっくりでいいから。花が咲くのを、急がずに待てる関係って、いいなと思うから」
図書館の上を、分厚い雲が流れていく。
それでも、ふたりの間に流れる時間は、柔らかく晴れていた。
📦 第4章に登場したおすすめアイテム紹介
この章では、「心と暮らしの手入れ」をテーマに、ふたりが静かに寄り添うアイテムが登場しました。
✂️ 電動ガーデニングはさみ(高齢者向け・握力サポート)
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特徴:高齢者の手にも優しい設計。スリムで持ち運びも快適。
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