図書館の中庭にある古いベンチは、座るとほんの少し軋む音がする。
その音を「不便」と取るか、「味わい」と取るかで、居心地のよさはずいぶん違うのかもしれない。
森田健一は、今日もそこにいた。
手には文庫本。ページをめくる指先が、風に揺れる葉の影と重なって、午後の時間に溶け込んでいた。
「——あ、やっぱりここにいた」
江原久美子の声は、ベンチの後ろから聞こえた。
振り返ると、彼女は小さな白い紙袋を手に、日傘をたたみながら立っていた。
「よかったら、これ。今日はお休みなんですけど、たまたま通りかかったので。……差し入れ」
紙袋の中には、地元のパン屋で人気のレーズンパンと、小瓶に入ったハーブティーのティーバッグ。
「甘さ控えめなのよ。私、昔からこればっかり」
「じゃあ、初体験してみます」
ふたりはベンチに並んで座り、それぞれにパンをちぎって口に運んだ。
図書館の裏手からは、木々のざわめきと、鳥の声が聞こえてくる。
すぐ隣で開いていたページに、健一がしおりを挟んだ。
「読むの、途中だったんですね」
「ええ。でも、こういうときは“中断”じゃなくて“間”だと思ってます」
「“間”……ですか?」
「そう。誰かと一緒に過ごす時間は、読書と同じくらい、静かで豊かな“読みもの”だと思うから」
久美子は目を細めて笑った。
「詩人みたいなこと言うんですね」
「いえいえ。年の功ですよ。言葉を急がなくなっただけです」
差し入れのティーバッグを手に取りながら、健一が訊ねた。
「このハーブティー、いつも飲んでるんですか?」
「夜に一杯だけ。お湯を注ぐと、ほっとするんです。ああ、今日もちゃんと終わっていくなって」
「……それ、いいな。僕はなんとなく、夜が手持ちぶさたで」
「だったら、今夜はそれで終わらせてみてください。“ちゃんと終わる夜”って、案外、いいものですよ」
風が、ふたりの間を抜けた。
「……江原さん」
「はい?」
「いつも“森田さん”って呼ばれてますけど……僕、もう少しだけ親しくなれたらうれしいなと思って」
「それは、“健一さん”と呼んでいいということですか?」
「はい。もし、差し支えなければ」
「……じゃあ、お返しに。私のことも“久美子”って」
少し照れたように、ふたりは視線を交わした。
健一は、手元の文庫本を閉じた。
「読みかけのページ、また次にします」
「そのとき、私もここにいるかしら」
「いてくれたら、きっといい午後になる」
ベンチの軋む音が、そっとふたりの会話を包んだ。
📦 第3章に登場したおすすめアイテム紹介
今回は、ベンチでのひとときをより心地よくする「やさしい暮らしの道具」が登場しました。
🍞 ローカロリーパン・レーズン入り(個包装)
特徴:甘さ控えめでしっとり。糖質・塩分を気にするシニア世代にもおすすめ。
参考商品例:
【Amazon】タカキベーカリー レーズンブレッド(個包装・無添加)
🍵 ハーブティー(夜用ブレンド・カモミール/レモンバーム)
特徴:カフェインレス、リラックス効果のあるブレンド。夜のおともに。
参考商品例:
【Amazon】Yogi Tea ベッドタイムブレンド(オーガニック・ティーバッグ)
📖 革調ブックマーク付き文庫カバー(しおり・内ポケット付き)
特徴:落ち着いた質感で大人向けデザイン。使い込むほど味が出る素材。
参考商品例:
【Amazon】HIGHTIDE 文庫カバー(しおり&カードポケット付・PUレザー)
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