『ゆっくり咲く花もある』第3章「庭のベンチと、読みかけのページ」

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 図書館の中庭にある古いベンチは、座るとほんの少し軋む音がする。

 その音を「不便」と取るか、「味わい」と取るかで、居心地のよさはずいぶん違うのかもしれない。

 森田健一は、今日もそこにいた。

 手には文庫本。ページをめくる指先が、風に揺れる葉の影と重なって、午後の時間に溶け込んでいた。

 「——あ、やっぱりここにいた」

 江原久美子の声は、ベンチの後ろから聞こえた。

 振り返ると、彼女は小さな白い紙袋を手に、日傘をたたみながら立っていた。

 「よかったら、これ。今日はお休みなんですけど、たまたま通りかかったので。……差し入れ」

 紙袋の中には、地元のパン屋で人気のレーズンパンと、小瓶に入ったハーブティーのティーバッグ。

 「甘さ控えめなのよ。私、昔からこればっかり」

 「じゃあ、初体験してみます」

 ふたりはベンチに並んで座り、それぞれにパンをちぎって口に運んだ。

 図書館の裏手からは、木々のざわめきと、鳥の声が聞こえてくる。

 すぐ隣で開いていたページに、健一がしおりを挟んだ。

 「読むの、途中だったんですね」

 「ええ。でも、こういうときは“中断”じゃなくて“間”だと思ってます」

 「“間”……ですか?」

 「そう。誰かと一緒に過ごす時間は、読書と同じくらい、静かで豊かな“読みもの”だと思うから」

 久美子は目を細めて笑った。

 「詩人みたいなこと言うんですね」

 「いえいえ。年の功ですよ。言葉を急がなくなっただけです」

 差し入れのティーバッグを手に取りながら、健一が訊ねた。

 「このハーブティー、いつも飲んでるんですか?」

 「夜に一杯だけ。お湯を注ぐと、ほっとするんです。ああ、今日もちゃんと終わっていくなって」

 「……それ、いいな。僕はなんとなく、夜が手持ちぶさたで」

 「だったら、今夜はそれで終わらせてみてください。“ちゃんと終わる夜”って、案外、いいものですよ」

 風が、ふたりの間を抜けた。

 「……江原さん」

 「はい?」

 「いつも“森田さん”って呼ばれてますけど……僕、もう少しだけ親しくなれたらうれしいなと思って」

 「それは、“健一さん”と呼んでいいということですか?」

 「はい。もし、差し支えなければ」

 「……じゃあ、お返しに。私のことも“久美子”って」

 少し照れたように、ふたりは視線を交わした。

 健一は、手元の文庫本を閉じた。

 「読みかけのページ、また次にします」

 「そのとき、私もここにいるかしら」

 「いてくれたら、きっといい午後になる」

 ベンチの軋む音が、そっとふたりの会話を包んだ。

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