『ふたりの午後に、花が咲く』第5章「花が咲いた午後」

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 春の終わり、南條秀一と江藤玲子は、ひとつの約束を果たすために小さな町へと向かった。

 30年以上前、ふたりの記憶が静かに交差していたあの場所――

 石垣の残る斜面のそばに、黄色い菜の花が群れていた。

 空はうすく晴れていて、少し強めの風が吹いていた。

 それでも空気はどこかやさしく、ふたりの背をそっと押していた。

 「ここですね……あの写真の場所」

 玲子はバッグからスケッチブックを取り出し、折りたたみ椅子に腰を下ろした。

 その横で、秀一は三脚を組み立て、古いフィルムカメラにフィルムを装填する。

 「本当に、あのときあなたがここにいたなんて。信じられないような、不思議な気持ちです」

 「こうしてふたりでまた、ここに立ってることも、充分に不思議ですよ」

 ふたりは微笑み合い、ゆっくりと作業に入った。

 玲子の筆が走る音と、秀一のカメラのシャッター音が、交互に響く。

 言葉は少ないが、そこには確かな対話があった。

 それぞれの視点で、同じ景色を見て、記録して、描きとめる。

 色と光が、ふたりの内側から静かににじんでいくようだった。

 やがて、玲子のスケッチが完成した。

 「見ます?」

 「もちろん」

 スケッチには、石垣と菜の花、そして小さなスケッチブックがひとつ描かれていた。

 まるで“過去の自分”に、いまの自分が寄り添っているような構図だった。

 「昔は“見せるため”に描けなかった。でも今は、“誰かと見たい”と思えるようになりました」

 「それは、素敵な変化ですね。……私もです。

 昔は、誰かに届く写真を撮らなきゃって思ってました。でも今日は、あなたと“共有したくて”撮ったんです」

 時間がゆっくりと流れる。

 春の陽射しの中で、ふたりはもう一度景色を見つめ直した。

 「花って、咲くのを急がないですね」

 玲子がぽつりと呟いた。

 「ええ。咲くときがくれば、必ず咲く。……人も、そうかもしれません」

 ふたりの肩が自然と並び、風がそっと髪を撫でた。

 その午後、確かに小さな花が、

 ふたりの間に、静かに咲いたのだった。

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