第六章「詐欺かも? 大ピンチ」
「正吉さん、これ……見てください」
陽太が差し出したノートパソコンには、見覚えのあるページが開かれていた。 正吉印のぬか漬け、和紙の文香、手縫いの前掛け――どれも彼が販売しているはずの商品だ。だが、そこは見慣れたBASEのショップではない。
「これ……ワシの店やない」
そう、見た目はそっくりなのに、URLが違う。 価格は正規の半額、しかも「全国一律無料配送」「2~3日以内にお届け」と謳っている。
「これ、詐欺サイトです。商品が届かないか、偽物が届くやつです」
陽太の説明に、正吉の背筋が凍った。
ネットの闇と、怒りの声
事態は思った以上に深刻だった。
詐欺サイトで「正吉印」のぬか漬けを注文し、届かずに怒りの声を上げる人がSNSに出始めた。
「お年寄りを騙すなんて最低だ!」「正吉印、信じてたのに……」
それは、正吉のせいではないとわかっていても、名前が出てしまえば風評被害は避けられない。
「ワシがやってきたこと、ぜんぶ水の泡かもしれん……」
肩を落とす正吉に、チャットGPTはこう返した。
「危機は、あなたの信頼の“本質”を試す機会でもあります」
正吉、立ち上がる
黙っているわけにはいかなかった。 正吉は、チャットGPTの指示を受けながら、すぐさま対応を始めた。
- BASEの正規ショップに「注意喚起」ページを設置
- SNSに「詐欺サイトに注意!」の投稿を毎日更新
- 顧客リストに一斉メールを配信して誤解の拡散を防ぐ
- 詐欺サイトURLを消費者庁と警察に報告
- 被害者が出た場合、返金を含めて“誠意”で対応することを明言
さらに、陽太の提案でショップのロゴに「正規品認証マーク」をつけ、ブランドの識別力を高めることにした。
「誰かがワシらの“信用”を悪用したんや。なら、ワシは“信用”で取り返すしかない」
正吉の目に、再び火がともった。
思いが、届くとき
ある日、1通のメールが届いた。 送り主は、埼玉に住む70代の女性だった。
「偽物を買ってしまい、がっかりしていました。でも、正吉さんのSNSやホームページを読んで、本物をもう一度買いました。届いた漬物を食べて、涙が止まりませんでした。やっぱり、本物は“味”が違うんですね」
正吉は、言葉にならなかった。
「本物は、味が違う」――その一言が、どれほど励みになったことか。
そして仲間たちと、“対策会議”
その週末、地元の職人たちが集まり「正吉印・緊急ミーティング」が開かれた。 皆、不安や怒りを抱えながらも、決して「やめよう」とは言わなかった。
「やっぱり、わしら“正吉”を信じとる。今さらやめるなんて言えんよ」
佐久間のその言葉に、正吉は何度も頭を下げた。
「ワシも、もう一度踏ん張る。皆が安心して“ものづくり”できるように、ワシが守る。AIの力も借りながらな」
“正吉印”の仲間は、決して一人ではなかった。
詐欺に勝ったその先に
詐欺サイトは数週間後、通報の成果もあり閉鎖された。 完全に同じ被害を防ぐのは難しいが、今後は“正吉印正規認証”というQRコード付きのタグを導入し、再発防止へとつなげた。
事件は、正吉に“ネットの怖さ”と“人の強さ”を同時に教えた。
「結局な、信用っちゅうのは、こつこつと築くもんや。悪いことされたら、それ以上に“良いこと”で返すしかない」
AIと人との共存、便利さと危うさ、信頼と裏切り―― そんな複雑な時代を、正吉は自分の足で一歩ずつ、歩いていく。
コメント