65歳、AIとネット販売 第八章

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第八章「AIと正吉、全国へ」

「正吉さん、出ましたよ!掲載されました!」

ある日、陽太がいつになく興奮した様子で正吉にタブレットを差し出してきた。画面には、地元のニュースサイト『ちいき発見マガジン』の特集記事が掲載されていた。

タイトルは、

65歳、AIとともに立ち上げた「正吉印」 地方から全国へ』

小さな町の大きな挑戦

記事は丁寧に、正吉の物語を紹介していた。

建設会社を定年退職後、AIに出会い、ネット販売の世界へ。
地元の職人と共に立ち上げたブランド「正吉印」は、いまや多くのファンに支えられている。
そして最近、東京から息子が加わり、親子二人三脚で新たな挑戦に乗り出した――。

掲載後、反響は凄まじかった。

「この前、テレビの人から連絡来ましたよ」「東京のセレクトショップが仕入れたいって言ってきてます!」

「全国から注文が殺到してます!配送どうしましょう!」

正吉は目を白黒させた。

システムが追いつかない!

「わ、ワシの手書き伝票じゃ間に合わんがな!」

拓也が急きょ導入を提案したのは、在庫管理システムと配送連携ツール。AIと連携して、注文が入るたびに自動で在庫を更新し、配送のラベルも出力される。

「便利なもんやなあ……ほれ、また一枚ピッと出たぞ」

「それ、昨日の分ですけどね」と拓也が苦笑いする。

だが便利さには落とし穴もあった。
急激な受注増に、商品が追いつかなくなってきたのだ。

「ちょっと待って! 佐久間さんの前掛け、もう在庫ゼロです!」

「漬物も足りんぞ! ぬか床が追いつかん!」

正吉たちは、職人たちと何度も調整会議を開き、生産と販売のバランスを取り戻そうと奮闘した。

AI、再び大活躍

「チャットGPT、なんかええ方法ないか?」

正吉が尋ねると、AIはすぐにこう答えた。

「生産力と需要のバランスを取るには、“予約販売”の導入が有効です」「また、商品ごとに“製造リードタイム”を明示することで、顧客の期待を管理できます」

拓也はAIの提案を即実行に移し、サイトに“発送予定日”を明示、人気商品の一部を**「期間限定・予約販売」に切り替えた**。

これが功を奏し、「待ってでも欲しい」という声が次々と寄せられるようになった。

「ワシら、ようやっと“ちゃんとした商売人”になってきたかもしれんな」

正吉は嬉しそうに笑った。

全国へ、そして“未来”へ

地元の小さな工房に、全国から注文が届く。
名前も知らなかった北海道の人、沖縄の人、離島の人。

「やっと本物の漬物に出会えた」「手縫いの前掛け、大切に使います」
届くレビューや手紙のひとつひとつが、正吉の胸に響いた。

そしてある日、拓也がこう切り出した。

「お父さん、いま“地方発ブランド支援制度”ってのがあるんです。補助金も出るし、クラウドファンディングにチャレンジしてみませんか?」

「クラウド……なんやそれ」

「“応援したい”って人たちから、先に資金を集める仕組みです。僕が全部やります。夢、もう一段階、でっかくしませんか?」

正吉は、数秒の沈黙のあと――

「よっしゃ、やろう。正吉印、もっと先へ行こうやないか!」

正吉印、世界へ?

クラウドファンディングは開始数日で目標を突破。SNSでは“正吉印を海外にも”という声もあがりはじめた。

「正吉さん、海外発送も視野に入れましょう!英語対応、AI翻訳にやらせれば大丈夫です!」

「マジか……ワシ、英語“アイ ライク ビール”しか知らんで」

「十分です(笑)」

笑い合う正吉と拓也、そしてモニターの向こうで黙々と提案を繰り出すAI。
まるで三人で会社を運営しているようだった。

正吉の独り言

ある晩。ふと、正吉はチャットGPTにこう打ち込んだ。

「ワシ、まだ先に進んでもええか?」

画面に浮かび上がった返事は、短く、しかし心にしみた。

「人生に“遅すぎる”は存在しません」

正吉は微笑んだ。

「ほな、もうちょいだけ、頑張るかのう」

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